お宅訪問
今回ちょっと長いです。目を休めながら読んでください。
30以上悩みましたがタイトルに『最初の~』というのが付けれませんでした。悔しい。
タイトルの呪縛から解き放たれて気が楽になりました。悔しい。
森で助けたアイリスが住むというリズン村に入る。ざっと見回してみるが家の数は20に満たないくらいか。
「シンさん、こっちです」
アイリスが俺の手を引いて村の中を進む。村人らしき女性たちが微笑ましそうにこちらを見ている。顔が熱くなるのを自覚してしまう。
「アイリス、この手はつないでいないといけないのか」
「すみません、お気に障りましたか?」
悲しそうな目でこちらを見つめるアイリス。手をつなぐことはいやではない。ただ恥ずかしいだけだ。恥ずかしいという感情に不慣れだからこの状態が続くのがいやなのだ。今の彼女に言っても恐らく意味はない。一種の魅了状態のようだからな。生命の危機という状況下で助けられたのが原因と思われる。時間の経過と共にそれも解消されるだろう。
早く彼女の家に行っていろいろと情報を聞きたいのに、彼女は今の状況を楽しむようにゆっくり歩いている。清楚系に見せかけてとんだ小悪魔系だ。人族というのは恐ろしい種族だな。俺もゲントのことは言えないな、人を見かけで判断するのはやめよう。
しばらく羞恥の視線に耐えながら歩いているとふいに彼女が足を止める。
「着きました!我が家です!」
目の前にこじんまりとした家屋がある。どうやらここが彼女の家らしい。今は妹しかいないんだったか・・・
「狭いですけど、どうぞ入ってください」
彼女は扉を開けてさっさと家の中に入って行ってしまった。こういうときって客が入るまで待たないか?いや昔と違うのかもしれない。早いとこ俺も入るとしよう。家の中に入り扉を閉めていると後ろからアイリスと誰かが話しているのが聞こえてきた。
「お姉ちゃん!!」
「ただいま~アンナ」
後ろを振り向くとアイリスに小さな女の子が抱き着いている。アイリスを「お姉ちゃん」と呼んだことからこの女の子がアイリスの言っていた妹だろう。髪はショートで姉に負けず劣らず将来に期待を持たせる容姿だ。だが見とれることはなかった。さすがに見とれるには幼すぎるだろう。
いまだに抱き合っている二人を見るが、妹が心配していたことを訴えているのに、アイリスはただ笑顔で俺のことを話している。俺のことを話すのは良いとして、せめて妹と会話をしてやってほしい。なんとなく片鱗を見せていた彼女だがここまでマイペースだとは思わなかった。
アンナと呼ばれた子が不憫に思えてきた。それでも心配されているんだから良い姉なんだろうきっと。そんな失礼なことを考えている間に感動の再会が終わったらしく、どうやら今からトランの実を乾燥させる作業に入る気のようだ。・・・どうやらマイペースなのは姉だけでは無いらしいな。
「すまないがその前に聞きたいことがいくつかあるのだがいいか?」
ここからどう行けば人族の国に行けるのかそれだけでも聞いておきたい。
「あ、そういえばそんなお話もしていましたね。忘れてました、すみません」
えへへ、と笑いながら謝罪するアイリス。かわいいから許すしかないだろう。
「それで何をお話すればいいですか?私のことならなんでもお話ししますよ」
かなり魅力的な提案だが国の場所を聞くのが優先だ。
「いや、アイリスのことを聞きたいわけじゃn」
「ア、アンナのことを聞きたいと言われるんですか!?」
焦りとも驚きとも取れない表情で詰め寄ってくる。近い近い、妹は汚いものを見るように青い目でこちらを見てくる。その目はやめろ新しい世界が開けそうだ。
「違う、そういうことを聞きたいわけじゃない。人族の国について聞きたいだけだ」
「人・・・族?その言い方だとまるでシンさんが人族じゃないような・・・」
ん?彼女は俺のことを人族だと思っていたのか。ということは人族と魔族というのは造形が違い、且つ俺は人族寄りの容姿なのだろう。
「そうだな、人族ではないな」
そういうと俺を見るアイリスの目が初めて恐怖を宿した。どうやら魔族とは仲がよろしくないらしい。誤解を解いておいたほうがいいな。
「人族ではないが、魔族でもないぞ」
姉妹揃って訳が分からないという表情をする。
「俺は魔人だ、魔人シン」
「魔人・・・ですか?そんな種族聞いたことがないです」
今の時代、魔族はいても魔人はいないのか。
「人族と魔族以外に種族はいないのか」
「ほかに種族と呼べるのは魔物くらいしかいません」
「たった3種族しかいないのか?」
かなり少ないな。世界の成長に進化が追い付いてないのか?
「いえ、それらは総称です。人族は我々ヒトの他にエルフ・ドワーフ・ホビット・獣人族がいます」
やはりあの頃とは違う進化をしたようだ、この短い期間でそれだけ多岐に進化したのも驚きだ。それに獣人族ということはさらに分岐するんだろう。
「魔族に関してはよく分かりません。ただ我々人族の敵とだけ聞かせれています」
さすがに全部は聞けないか、魔族のことは魔族に聞くとしよう。
「人族の国はこの村からどう行ける?」
「王都ヘイズでしたらここからイリア山を迂回して二月ほどでしょうか。もちろん馬車で移動するとしたらですけど」
「途中に村や町はあるか?」
「はい、イリア山を東に迂回すれば港湾都市アスカが西に迂回すれば鉱山都市マインズがあります。貿易をしている分アスカの方が食べ物は豊富だと思います」
「分かれ道まで何もないのか?食料を調達できそうな場所なら森でもいい」
「たぶんですけど・・・どこの村も食料を売っているところはないと思います。王都方面ではないですけど村から西の方に進めば辺境都市グリモアがあります」
「辺境都市?」
「魔族領とアスト森林の両方に面している都市です。王都ほどではないですけど人も資材も沢山集まっているみたいです」
今聞いた限りではグリモア、マインズ、アスカ、ヘイズの順が一番効率良さそうだ。
「この村でも食料は売っていないんだな?」
そうだとしたら非常に困ったことになる。森に戻って狩りや採取をすることも念頭に置いておく必要がある
「そう・・・ですね、私たちに余裕があればお譲り出来るんですが」
トランの実を取りに森に入るくらいだ。そんな彼女から食料を分けてもらうわけにいかないだろう。
「森に獣系の魔物はいないのか?一匹も見かけなかったが」
「そうなんですか?アスト森林にはウルフやゴブリンなど沢山の魔物がいるはずですよ」
余程俺の運が悪いのか?それとも獣の勘とやらで俺との力の差を感じ取っているのだろうか。辺境都市まで魔法で行ったほうがいいな。
「そういえば村に行商人の方が来ているそうですよ。ゲントさんが教えてくれました」
行商人か・・・確かものを売り買いする職業だったな。食料も扱っているだろうか。
「その行商人はどこにいるか分かるか?」
「村の広場にいるらしいですよ。行ってみますか?」
そうだな、ここにいてもこれ以上聞くことはないだろう。・・・彼女について少し質問するか。
「そうだな案内してくれ。そういえば、アイリスは今何歳なんだ?」
「歳ですか?今年で14になりました。アンナは8歳です」
やはりまだ少女と呼ぶべき歳だったな。これからこの子たちだけで生活していくのか?
「私からも質問していいですか?」
「なんだ?」
「シンさんはさっき自分のことを魔人だとおっしゃいましたよね。魔人とはいったい?」
物分かりがいいと思っていたが、聞くのを我慢していただけか。正直に答えてもいいが理解は出来ないだろう。
「アスト山脈の向こう側でずっと暮らしていた。魔人は俺しかいない超長寿種だ」
暮らしていたのは嘘だが長寿なのは本当だ。
「アスト山脈の向こう?すごいところで暮らしていたんですね。「世界の果て」といえば魔族ですら近寄らないという話ですよ」
おそらく俺の封印かあのバカ龍の影響だろう。トレント程度の力だったら片手間でも処理できる程度の力はあった。
「まぁな、それで?案内をお願いできるか?」
「お姉ちゃん行っちゃうの?」
アンナが縋るような目をアイリスに向ける。
「大丈夫よ、ちょっと広場まで行くだけだから。それとも一緒に行く?」
「うん、行く」
迷うことなく頷くアンナ。そりゃそうだろうな、アイリスがどれだけ森の中にいたかは知らないが母を失って間もないんだ。一人になるのが怖いのだろう。
「話は纏まったか?では行こうか」
彼女たちと一緒に家を出る。どうやら今度は手をつながなくていいようだ。彼女たちの後ろを歩いて2分程か、さっき女性たちがいた場所が広場だったのか。行商人というのはあの馬車の近くに立っている男か?
「彼がそうみたいです。村で見たことないですから」
「ありがとう」
アイリスに感謝を告げて男に近づく。ゲントより少し若いくらいか。
「どうも」
「やぁ、何かお探しですか?」
「食料と地図が欲しい。あるか?」
「地図はありませんが、食べ物なら鉱山都市名産の鉄芋に港湾都市の干し魚がありますよ。少し値は張りますが品質は保証しますよ。安いものでよければウルフの干し肉もありますよ」
「それぞれ値段を聞いても?」
「もちろん。鉄芋が銅貨5枚干し魚が銅貨7枚干し肉が10枚一束で銅貨5枚です。3種類セットで買っていただければ銀貨2枚にマケておきますよ」
「そうか、手持ちがない。先に買い取りをお願いしたい」
「えぇ。見せてもらっても?」
とりあえずリングから適当に出すか。・・・これはどうだ、魔力を流すと強い光を放つだけの剣だが装飾は見事だ。金持ちに売れるんじゃないか。
「これはどうだ?」
「今どこから・・・いえ買い取りでしたね。詳しく見たいのですが」
「どうぞ」
男に剣を渡す。眼差しが鋭くなった、さて買い取ってもらえるかな。
「これは・・・とても良い品ですね。それに魔剣ですか。どういう効果を持っているか教えていただけますか?」
男に剣を返してもらう。
「剣に魔力を流すと・・・」
魔力を流すと剣が光を放ち始める。
「こんな感じだ。強く流せば目くらましにも使えるし、緩やかに流せば光源にすることも出来る」
「実用的ですし装飾も見事なものですね。貴族の方に高く売れるでしょう。金貨3枚というところでしょう」
「じゃぁそれで頼む。金貨は1枚であとの2枚は銀貨に両替してくれ」
「私が言うのもなんですが、値段交渉とかはしないのですか?これほどの品なら本当なら5枚は下りませんよ」
「問題ない。魔剣はそれだけじゃないしな」
「このような魔剣がほかにもあると?」
「あるにはあるがそれ以外の魔剣は少し危険だからな」
これ以外だと広域破壊魔法を放ったり、使用者の命を削って切れ味を強化するものもある。・・・自作だがな。
「では金貨1枚銀貨200枚でいいですね?」
「あぁ、それで頼む」
「こちらにばかり儲けが出てしまうのは申し訳ないので、食料に関してはタダでお譲りします」
「それは助かる。たしかセットで銀貨2枚だったな、20セット頼む。後の儲けは俺への借りにしといてくれ」
「何かとんでもないことを頼まれそうで怖いですが、いいですよ。商談成立ですね」
いいね。滞りなく話が終わった。
「そうだ。俺はグリモアへと行くんだが、あんたは?」
「奇遇ですね。今回の行商の最後にグリモアニ行く予定だったんですよ」
「護衛として一緒に連れて行ってくれ」
いいタイミングだ。彼について行こう。
「護衛ですか・・・ここから辺境都市まで距離はありますが、今までほとんど魔物は確認されていません。それで護衛を雇うのは少し・・・」
ここでそういうことを言うか?借りを返すってことでいいだろうに。・・・面倒だ。
お疲れ様でした。
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