Dの部屋
やあ、おはようフルフル。もう昼ですって、いいじゃないか今起きたんだ私は。
それで……あ、もう来てる? では通してくれたまえ。
やあ、Dの部屋へようこそ。私がここの主だ。気さくにDDと呼んでくれてけっこう。
さて依頼の件だが……さすがに全員は無理だったよ。クラスメイトの卒業後の人生、とか言われてもねぇ。ああ大丈夫、ちゃんと押さえる所は押さえとるから。
……ふむ、ごもっともな意見だが、まずは聞いてみんかね。
では始めようか。
まずテラダ君だが、彼は卒業後、喧嘩で鳴らした腕っぷしと度胸を買われて、とある総合商社へ就職。その最初の仕事が……まあぶっちゃけ鉄砲玉だな。ところが本人には知らされていなかったが、実は彼はおとりでね。しかし期待以上のど根性で、勢い余って計画そのものをぶち壊しちまった。そういうわけで長いこと塀の中にいるが、たぶん出てきても出世の見込みはないなアレは。
次にヨドガワ君だが……ああこれはテンマさんも合わせて報告しよう。誰もが羨む美男美女カップルだった二人は、卒業後数年を経てめでたく結婚、翌年には第一子サクラちゃんを出産……と、ここまでは良かったんだが。彼女はあれだ、ヤンデレとかいうヤツだったみたいだねぇ。些細なすれ違いがあっという間に大きくなって、サックリ、ポン。いやあ、女性は恐いねぇ。
ほら、ね。いいトコついとるだろ?
サクサクいこう。次はクジョウ君だ。もって生まれた権力と財力、傑出した才能で、帝王の名をほしいままにし悪の限りを尽くしていた彼は、さらなる権勢を手に入れるべく旧家のお嬢様と政略結婚……するはずだったんだが、何をトチ狂ったか式を目前に全てを捨てて出奔、勘当。どうやら過去に傷つけてしまった女の子のことがどうしても忘れられないらしい。それで今は家の妨害もあって食うや食わずの生活をしながら、件の女の子を捜している。まあ客観的に考えて、とうてい見つけ出せるとは思えんけどね。
……あの。喜んでくれるのはこちらとしても嬉しい限りなんだが……すまんがその薄ら笑いはやめてくれんかね。なんか恐いよ。
まあいいや。次、ノダさん。言葉巧みに遠回しに、じわじわと人の心を追い詰めるのが得意だったノダさん。面白半分で応募した小説の辛辣な筆致がウケて見事に商業デビューを飾るも、それ以降鳴かず飛ばずの下積み生活。しかし彼女には独特なユーモアセンスもあったらしく、昨年ついに大ヒット作を生み出す。ほれ、いま映画化されてやっとるだろ、生命の起源に迫るSF超大作――などと謳っとるフザケたカッパのやつ。あの原作者がノダさんなんだな。
……いや、キミ。笑うのはやめてくれと言ったが、かといって怒ってくれとも言って……ああ、そう? そりゃすまんかった。
さあ次はお待ちかね、イマミヤ君だ。そう、卒業式の日に「また会おうな」と言ってくれたイマミヤ君だよ。彼が傑作でねぇ。知っての通り、誰にでも優しかったイマミヤ君は、そんな自分がつまらないと感じていたらしい。それであるとき知り合った……なんちゅーかアウトローな連中の放つ、背徳の香りにたちまち酔っちまったんだな。急降下爆撃みたいな転落のあげく、最期はハッピーでブッ飛ぶヤツをキメてお楽しみの最中に、イケてるオンナのとある部分が超ケイレンして、ピーポピーポと搬送中に名誉の腹上死ときたもんだ。チョーシぶっコキすぎて致死量を越えてたんだねぇ。
いやあ、こいつは……ん、何を怒っとるのかね。ふむ、しかしキミ、彼の人生は私のせいじゃないだろう。そもそも……あ、ああ。行ってしまった。
何だいフルフル? 酷いじゃないですかって、クジョウ君の捜している女の子ってのが、あの娘だと教えなかったことがかね? そんなこと言われても、それは依頼内容になかったし、最後まで話を聞かないからじゃないか。それに私のことも信用してなかっただろ、あの娘。お代も払わずに帰っちゃったし。別にいいけどさ。
大体ああいう目をした人間は、何を言っても聞きゃあしないし、本人に上がるつもりがないんだから、下手に手を差しのべても奈落に引き摺りこまれるだけだろうよ。それはクジョウ君にとって幸せかね? まあその辺のことまでは知ったこっちゃないんだが、そーゆーのはもう見飽きたんよ、私は。
……ここを辞めたくなったかね? そうか、そりゃ助かる。
では気分を入れかえて、次に行こうじゃないかフルフル! ……キミのことだよキミの。と言うか、今頃ツッコむかねソコを。
まあとにかくだ。フルフル、親しみやすくていいだろう? 実は旧知の……って、聞いちゃいないよ。なんか最近、私の扱いが酷いなあいつ。
さて、次の依頼者だ。
やあ、Dの部屋へようこそ――。