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竜王の転生~結束の旗と独立宣言~  作者: Abel
一章・独立宣言編
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初めての出会い



 草原を抜けて、丘陵が目立つようになってきた。一際高い丘の下で、馬車が横転している。

 必死な表情で逃げる少女と、少女を守るように剣を振るう騎士。

 そんな二人を追う――魔族。額から角を生やしている、気性の荒いゴブリンだ。

 知性も乏しく、本能の赴くままに暴れるだけが取り得の魔族だ。一体一体の戦闘力は大したことではないが、小柄ですばしっこく、集団で獲物を追い詰めることを得意とする。


 少女は煌びやかなドレスを身に付けている。それだけで、身分の高いものだと理解できる。

 騎士のほうは、わからない。フルフェイスの兜で素顔を隠している。少し背丈が低いが、相当な手練であることは剣を振るう一挙手一投足を見ればわかる。


 逃げている少女を見て、余の中に名案が浮かんできた。

 手探りで何も分からない状態だが、この状況で彼女たちを助ければ、間違いなく余に感謝するだろう。

 それならば私の目的である勇者の力の一端を知ることが出来る。

 さらには今の時勢を知るに充分な情報を貰うことができるだろう。


 うむ。ならば迅速に行動するようにしようっ!


「ぬん……はぁっ!」


 足に力を込めて、一気に跳躍する。目算通り、余はゴブリンと少女たちの間に着地することが出来た。


「きゃあっ!?」


「なんだこれは!?」


 余を境として、少女たちとゴブリンの分断に成功する。

 ゴブリンが余の存在に気付き、少女と騎士もまた余の存在に気付く。

 少女の甲高い悲鳴が聞こえたが、今はそれを気にしている状況ではない。


 余に視線を向け、ゴブリンの敵意が一斉に余に向いた。ふん、小鬼の分際で、その小さな棍棒で余を襲えるものか!

 旗を振るい、棍棒を弾く。叩きつけ、ゴブリンを吹き飛ばす。


「そこの騎士よ」


 この程度の相手であれば、片手間でも相手をすることが出来る。

 折角だ、私と肩を並べるように前に出てきた騎士と会話でもするとしよう。


「なんだよ、変態!」


「変態とは随分な言葉よな。助けてやっているというのに」


「五月蝿い、何が助けだこの露出狂!!!」


「む……?」


「服を着ろって言ってるんだド変態ッ。姫様に汚いもの見せているんじゃねえ!」


 どうやら騎士は私が何も身につけていないことに憤慨しているようだ。

 ……汚いもの、か。


「余のどこに汚らしいものがあるというのだ。余はこの完成された肉体を余自らが絶賛しているというのに」


 引き締まった身体、決して鍛え過ぎられていない筋肉。

 バランスの取れた体躯はまさに一つの美といっても過言ではない。


「そいつ仕舞ってから言えって言ってんだろうが!」


 騎士が余の下半身を指差す。なるほど、そういうことか。


「別に男性器のことなど気にすることではなかろう。むしろ立派であることを誇るべきよ」


「あぁもう会話が成り立っている気がしない!」


 この間にもゴブリンを蹴散らし続ける。けれどさすが数を利に戦う魔族よ。殺傷能力がない旗では、諦めの悪いゴブリンを追い払うには力不足である。


「だぁ、くそじれったい! 姫様、ちょっと下がっててください!」


「は、はい!」


「お前は数秒で良い。オレを守れ!」


「む? よかろう」


 騎士の言葉に答えて、余たちを見守っていた少女が数歩下がる。

 何をするのかはわからない。だが騎士には勝算があるようだ。

 ならば、それを見させてもらうとしよう。


 空気が変わった。冷たい空気が、丘陵地帯を駆け抜ける。ゾクリと背筋に悪寒を覚える。

 騎士が笑った。兜で表情は見えないが、確かに嗤った。


「――風よ応えよ。オレの言葉に従い、その力を収束させよ。猛れ、狂え。この剣は、竜を討つ剣であるッ!」


 騎士が剣を振りかぶる。風が渦を巻いて刀身に集う。

 余の目から見てもわかる、莫大な魔力だ。この騎士は、魔法を扱えるというのか。

 けれど余の過ごした時代には、剣を用いて魔法を行使する人間など見たことが無い。新しく確立された魔法なのかもしれない。


「『空を穿て、慟哭の風クレッシェンド・ストゥルム』ッ!!!」


「ギギッ!?」


 剣を振り下ろすと同時に、刀身に収束された暴風が、ゴブリンに向けて放たれる。

 暴風に旗が激しく揺れる。暴風はゴブリンたちをたちどころに飲み込み、瞬く間に切り刻む。

 肉片が散らばる。血は暴風に吹き飛ばされて拡散していく。


「か、っは……」


 騎士が片膝を突くと、風が落ち着いていく。

 魔法――ではない。魔力を使ったが、余が知る魔法とは一線を画していた。


「騎士よ。その魔法は何だ。余が知らない魔法がいつの間に出来ていた?」


「はぁ? お前『心具』も知らないのか?」


「知らん。何しろ余は生まれたばかりであるからな」


 は? と怪訝な声を漏らした騎士に手を伸ばす。必要ないと叩かれてしまった。

 しかし、少々予定外である。余のイメージではしゅぱぱぱどーん! とゴブリンを追い払い、少女と騎士に感謝の言葉を浴びるはずだったのだが。

 結果を見ればゴブリンを倒したのは騎士であり、余は時間稼ぎをしただけではないかっ!


「大丈夫ですか、リューネ。それと、旅の御方も」


「大丈夫です姫様。ちっとばかし疲れちまいますが、ゴブリンどもは無事片付けました」


 少女が駆け寄ってくるが、余と視線を合わせようとしない。いやむしろ全力で余から顔ごと逸らしている。

 なんだその態度は。寛大な余であろうと傷つくこともあるのだぞ。


「いや不満そうな顔してないで服着ろって」


「必要ないだろう。あんなもの運動能力を低下させる拘束具ではないかっ」

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