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FantasyAssault The Story of Altair (休載中)  作者: Kei
第1章Operation”YATAGARASU"
9/11

第4話#1

 3月31日、ヴァレント市国領内東部、現地時刻0520時

 南緯30度程度の地域でも、この時期になってくると夜明けが遅くなり、辺りはまだ夜の帳に包まれている。

 ヘリは対地高度1000フィートを飛行しているが、暗視装置なしでは地上の様子がわかりにくい。


 「こちらアルタイル1Aリーダー、視界内に野生の魔物を含めた敵性目標なし」


 〈こちらフルート03、了解〉


 〈こちらアルタイル2Cリーダー、こちらも発見できず〉


 「アルタイル1Aリーダー了解。対空、対地警戒を厳に。アウト」


 ブラックホークのアンテナに繋いだコータムの受話器を置き、零次は新型暗視装置を装着しなおした。スタングレネードなどの閃光を浴びると減光処理を行い、完全な暗闇ではアクティブ暗視装置として機能、それを活かした光信号機能を持ち、レーザー測距装置を内蔵する高級品だ。


 「友樹、ヴァレント市までどのくらい?」


 「今の機速で1時間」


 「了解。現在の速度を維持」


 不意に無線機の着信コールが鳴った。


 「貸与した無線機からです」


 「恒一、受話器」


 「はい」


 「こちらアルタイルリーダー」


 〈零次か?〉


 「レイン、発信者を告げてから喋れ。前にもそう言っただろうが」


 〈悪い…それより、領内にアルテリア軍のコマンド部隊が侵入した可能性が出てきた〉


 「どういうことだ?」


 〈北部の集落が野盗の襲撃を受けて、その野盗がアルテリア軍のRA-29とRA-30、HR-11で武装していたんだ。たぶん、野盗に貸与したんだと思う。奴ら、刻印を消すのを忘れていたらしくて、1丁にコマンド部隊のエンブレムが入っていた〉


 「了解。これから、どうするんだ?今、国境から40キロのヴァレント領内だけど」


 〈集落の民間人をヴァレント市に避難させる。5分後には、国境警備隊と一緒に集落を離れる〉


 「了解。支援に向かったほうがいいか?」


 〈それなら、カーウィン橋で合流できるか?ルイセ川の上流のほうだけど〉


 「え〜と…」


 零次はタブレット端末に地図を表示させ、ルイセ川をルイセ山脈の方に辿った。


 「あ〜これか…ヴァレント市まで一本道でつながっている奴か?」


 〈ああ、それそれ。今は使われていない古い砦があるから、合流点には使えると思う〉


 「了解。そっちの現在地からどのくらいかかる?」


 〈1時間位だ〉


 「了解、ちょっと待ってくれ。171CT本部、こちらアルタイルリーダー」


 〈こちら171CT本部〉


 零次は戦闘団本部に通信内容を連絡し、民間人護衛部隊との合流許可を得る。


 〈それじゃ、砦で〉


 「わかった。通信終わり。友樹、この先にルイセ川が見えてくるから、その上を飛べ」


 「了解」


 「翼、バレットを準備しておけ」


 「了解」


 高山翼陸士長は短く返すと、愛銃のバレットM82A1をガンケースから取り出した。この橙色の髪をした16歳の少女が撃つには大きな狙撃銃は、擲弾銃を除いて”銃”の中ではトップクラスの射程と命中精度、威力を誇る。有効射程は1キロを遥かに超え、イラクでは1・5キロの先の人間を両断したバケモノだ。

 翼はポーチから12・7ミリ弾のマガジンを取り出すが、その弾丸はM2マシンガンやGAU-19ガトリングに装填される、通常弾や徹甲弾、曳光弾とは違い、弾芯にタングステンを使用した特殊構造で、通常弾を弾く20メートル級翼竜型魔物”ワイバーン”の容易に貫通する威力を持つ。対獣戦闘において要になる対物狙撃手の重要な武器だ。


 「総員、火器薬室装填。安全装置」


 「「「了解」」」

 「友樹、編隊の高度を1000から下げろ。万一、野盗とレインたちが交戦している時に、高度が高いと砲撃魔術をモロに浴びる」


 「要は、敵の400メートル圏内に入った時に、敵兵の視界内に入らなければいいんだろ?それ」


 友樹はコレクティブレバーを下げ、高度を一気に1000フィートから100フィートまで急降下させる。メートル法に換算すると、300メートルから30メートルまで高度を下げたことになる。

 砲撃魔術は、基本的に術師に依存するが術式武装との併用で最大有効射程400メートルで、射程ギリギリになるとエネルギー弾だけの光学砲タイプは大気で減衰し、砲弾タイプは照準にかなりの狂いが生じる。そのため、砲撃魔術戦の平均交戦距離は300メートルと言われている。

 ホバリング中のヘリや視界の狭い装甲戦闘車両は砲撃魔術の標的となりやすく、自衛隊の交戦規定ではこの数字に入る前に魔術師を減らし、車両は速度を維持して、ヘリは低空を維持すると言う原則になっている。

 しばらく飛んでいると、日が上がってきたのか東の空が若干紅く染まっていた。


 「そろそろ夜明けか…現在時刻は?」


 「0600…」


 「詩織、寝不足?」


 「うん…眠い…」


 「…カーウィン橋までどのくらいだ?」


 「あと10キロ」


 「地上部隊との距離は?」


 「アルタイル2、3が5キロ、ワルキューレとスレッジ、ハンマーが15キロ」


 「了解。小隊、交戦用意。俺が許可するまで安全装置は絶対に解除するな」


 敵部隊がいなければいいが、万一ということもあり得る。零次はエンカウントに備え、射撃可能状態に移行して不測の事態を対処できるようにした。

 まもなく対戦車ミサイルの射程に入る、つまり交戦エリアに侵入することを意味する。


 「ガンソード01、前方5キロ圏内に敵性反応はあるか?」


 〈こちらガンソード01。レーダーには何も…いや、前方距離4200高度300にレーダーエコー。熱源反応も同位置に。熱源照合、ワイバーンと断定。数増加中〉


 「ガンソード01、こちらノワール01。データリンクを」


 〈了解、今送った〉


 「こちらアルタイルリーダー。確認した。野生のワイバーンって、こんな数で群れを作るか?」


 〈ワイバーンの後方200にさらなる熱源。対人目標、及び車両と推定〉


 零次がコックピットの窓から前方を確認しようとした時、無線機の着信コールがまた鳴った。


 「こちらアル…」


 〈零次!〉


 「レイン、どうした?」


 通信相手の声がかなり慌ただしく、零次は発信者名を告げるように注意するのを忘れていた。


 〈野盗の奴に襲撃されて、しかも、橋の対岸にも居やがって、砦内で動けない!〉


 「了解!敵戦力の数、種類、装備を教えろ!」


 〈ちょっと待て…画像の送信は…〉


 コータムの端末画面にレインたちが撮影した画像が表示される。


 〈後ろの奴らが装甲車4、小銃手24、機関銃手6、狙撃手6、ハンドラー2!魔物多数だけど、数と種別は確認できない!対岸のやつは、歩兵20で全員小銃装備!魔物はなし!戦車4、装甲車6!〉


 「了解!そっちに車両はいるか?」


 〈装甲車が4両!〉


 「砦内から絶対に出すな!赤外線誘導ミサイルの巻き添えを食うぞ!ガンソード各機、ヘルファイアの使用を許可する!目標、敵戦車!」


 〈ガンソード01、了解!ノワール01、編隊離脱の許可を求める!〉


 「ノワール01、許可する。各個の判断で攻撃せよ!」


 〈ガンソード01、了解!ガンソード全機、ヘルファイア斉射用意!目標、敵戦車!弾数1〉


 アパッチが編隊を離脱すると、高度を100メートル上げて横並びのフォーメーションを取る。


 〈よ〜い…てぇっ!〉


 AGM-114ヘルファイアが発射され、ミサイルはアルテリア製戦車TM-97ストライダーへと正確に飛翔した。タンデム成形炸薬弾、所謂HEAT弾が装甲を食い破る。


 「アパッチ各機は、そのまま空対空戦闘に移れ!」


 〈了解!〉


 「総員、戦闘用意!安全装置解除!目的は、味方部隊への攻撃を実施する敵性勢力の殲滅!民間人を巻き込むな!」


 「「「了解!」」」

 

 

 レインは、増援が来ることを国境警備隊や他のレジスタンスメンバーに伝えると、重たい無線機を警備隊員に任せ、戦列に加わった。対岸の部隊は足止め部隊なので、攻撃自体はそこまで過密ではない。

 一方、反対側、つまりレインたちの進行すべき方向から見て後方の部隊は、森の木々に身を隠して制圧射撃を行い、魔物や突撃兵による突撃が行われている。

 レインたちレジスタンスメンバーは、装備の関係上魔術戦の遠隔攻撃能力を有さないため、彼らは近接戦を担当する。


 「ハルカさん!」


 「レイン、連絡は済んだ?」


 レジスタンスのリーダー格、ハルカ・アロンソは、1メートル級人型魔物”ゴブリン”をスライスすると、敵の射撃から身を隠していた。長い黒髪の似合う若い女性は、長い日本刀を愛刀とし高い近接戦闘能力を持っているが、どこか間の抜け部分があること、極度の高所恐怖症であることなど、戦闘以外ではいいとこなしの”残念美女”と言うのが周囲の概ねの評価だった。


 「すぐに零次たちが来るそうです」


 「さっきの爆発は?」


 「敵の戦車が誘導弾で破壊されました」


 「それなら、まだ楽かもね。対岸の部隊さえ排除すれば、橋を越えて、零次たちに橋を爆破してもらえば、敵は渡れない」


 「そうかも知れないですけど…っと、また来ましたよ!」


 レインが敵突撃第3陣の状況を確認しようとした時、背後から頬をつねられた。


 「イテテ…ルナ!何すんだよ!」


 ハルカと違い、やや短めの黒髪をしたルナは、どこか不機嫌そうだ。


 「レインは、私は”お前がいないと、役目を果たせないだろう”!」


 「だから、警備隊から銃を借りてたんだろうが」


 「そういう問題では…まぁ、銃は嫌いではないが…」


 「”刀”が銃をね…来るぞ!」


 「アルリア!」


 「任せて!」


 ルナが叫ぶと、彼女の後方で待機していたアルリアが弓を構えた。エルフの少女で、人間に換算すると見た目相応の歳になるらしい、銀髪の美しい彼女だが、性格と戦法は攻撃的だ。

 弓矢を魔術のデバイスとし、鋼鉄製の矢を弾芯にして魔術を発動させる。


 「喰らいなさい!」


 矢は敵に向けて放たれると、突撃部隊の頭上で爆ぜた。そして、無数の光弾が敵に降り注ぎ、それらが着弾と同時に爆発する。魔術式のクラスター爆弾のようなもので、面制圧に用いられる。


 「エステル!右のタイラントとその後ろの奴らをお願い!」


 「は、はい!」


 アルリアのオーダーで金髪の少女、エステル・リーカーが砲撃魔術を展開する。一見気の弱そうなエステルなのだが、彼女が使用する術式は榴弾砲のような破壊力と命中精度、射程に優れたもので、タイラントクラスまでの魔物なら吹き飛ばす威力がある。

 なので、可愛い少女にえげつない威力の砲撃を浴びせられる敵兵という、敵が若干可哀想な場面が発生することになる。これが、敵兵の不幸で済めばのいいのだが、彼女自身が若干トリガーハッピーなのでレインたちは苦労していた。

 それはともかく、無数の魔物はかなりの数が減ったが、それでもそこそこの量が残っている。

 

 「ルナ!」


 レインは叫ぶと、集落を襲った野盗から鹵獲したRA-30ライフルを連射し前進する。ルナも、ベルニア製の6ミリ口径ライフルT10を連射して、前進しつつ敵を牽制する。ゴブリンや2メートル級人型魔物”オーク”程度の相手なら、6ミリ通常弾や17式5・56ミリ高貫通性対生物弾でも一撃で無力化出来るので、距離がある段階から減らしにかかる。この手も魔物は群れで襲いかかってくるので、数を減らして接近戦に入るのが原則だ。


 「ルナ!」


 レインが再び叫ぶと、ルナはすぐにレインの傍に寄った。そして、レインが彼女の手を持つと、彼女の体は一瞬で美しい刀身の刀へと変貌した。


 「行くぞ!」


 『ああ!』


 レインが叫ぶと、ルナは短く答えた。

 宝具、所謂アーティファク。その中でも、それ自体に人格を持ったものを精霊宝具、マインアーティファクトと言う。

 レインの家は、その精霊宝具、つまりルナの所有者を代々務めてきた。彼女が銃を持っているのは、敵が遠距離のいる時は役に立たないので、銃を持たせて火力を底上げしようとレインが思いついた結果だが、ルナの射撃センスが意外に良かったので、この戦術が2人の基本戦術になっている。

 軽やかな動きでレインは刃を振るい、戦闘用の斧を振り掲げたオークの首をはねる。そのまま、太刀筋は傍のゴブリン数体を薙ぎ払い、さらに背後をとったつもりの3メートル級狼型”ハウンドドッグ”を胴をスライスした。


 『レイン!』


 「!」


 ルナの叫びに反応して、レインがその場を飛び退くと、タイラントが戦斧を振り下ろした。その後ろには、同じ魔物が4体。


 「ッチ、流石に数が多い!」


 吐き捨てるレインだが、タイラントはお構いなしに攻撃してくる。両手に握られた戦斧を右に左に避ける。

 不意に、戦斧の柄に何かが当たった。一番強度の弱い箇所に12・7ミリ弾をくらい、戦斧は真っ二つに折れた。さらに、何発もの弾丸が戦斧の刃を破壊していく。

 その機を逃すレインではない。

 刃を振り上げ、タイラントの頸動脈を斬りつける。

 

 「やっと来たか…」


 UH−60JA改が低空を飛び抜けようとしていた。

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