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FantasyAssault The Story of Altair (休載中)  作者: Kei
第1章Operation”YATAGARASU"
8/11

第3話

 3月29日、ベルニア王国西部時間1120時

 第17旅団は、31日付で発令される要人輸送・部隊展開作戦”ヤタガラス”のため、前方兵站基地(FSA)に指定されたエアプ空軍基地に順次展開し、特に第171戦闘団はすでに展開を完了し、演習サイトで機能別訓練を実施していた。

 戦闘団とは旅団内、状況によっては複数の旅団を統合した上で数個編成される組織で、1個師団と同程度の規模を持つ17旅団であれば3個戦闘団を持つ。零次以下アルタイル小隊は、第171戦闘団(171CT)隷下の部隊で、主に戦闘団本隊から先行しての偵察、戦闘と主任務をとする。

 機能別訓練は実戦形式の統合訓練とは違い、テニスで言えばひたすらサーブの練習をするようなものだ。

  

 エアプ基地第2演習区画、上空300フィート

 

 「マーカー投下!」


 零次の指示で、UH-60JA改ブラックホークからマーカー弾が射出され、ヘリはそれを中心に旋回を開始する。


 「総員降下用意!着陸点周囲に機銃掃射!」


 「了解!右舷機銃起動!」


 零次の指示を受け、ブラックホーク”ノワール01”通信航法士のリン・イーフィン三等陸曹は、コンソールを操作して右舷の12・7ミリガトリング銃GAU-19をスピンアップさせ、着陸点の周辺一帯を弾丸で耕す。この在日中国人の少女が操作する機銃は、遠隔操作式兵装RWSになっている。


 「友樹、今の旋回半径と降下率を維持」


 「了解」


 機長兼ヘリ分隊長の鳥飼友樹一等陸曹は、操縦桿を絶妙に操作して機体姿勢を維持する。ハーレムチームと呼ばれるブラックホーク要員の中で唯一の男子は、操縦技能の高さでは自衛隊内でもトップクラスを誇っていた。


 「右ドア開けるぞ!」


 「いいぞ!」


 零次がドアを開けると、小隊第1班メンバーが両舷のドアからライフルを構える。

 ヘリの高度が下がり、ダウンウォッシュで砂や枯れ草が舞い上がる。


 「タクト、春!降下点制圧!」


 「「了解!」」


 宮野タクト二等陸曹と白石春三等陸曹が、ドアから地面に飛び降りる。高さ30メートルからの落下の衝撃を重力制御術式で抑えこみ、即座に89式を構えて周囲を警戒しつつ、術式と併用して減速に使用するワイヤーを外す。

 2人が降下点制圧を完了すると、ブラックホークは滑らかに旋回しながら降下して、大迎え角をとって減速し着陸する。零次たちが素早く降機し、殻になったヘリは急上昇して離脱する。


 「涼!今のタイムは?」


 「7分23秒!」


 訓練統制用の無線機とストップウォッチを持った小隊主席副長兼第2班長、釘宮涼一等陸曹は、所要時間を叫ぶとそれをExcelに記録した。


 「まだまだ…あと2分23秒は縮めるぞ!」


 零次がそう言うと、班員たちは困ったような顔をしてみせる。小隊の指揮系統は、基本的に零次をトップとする完全トップダウンで、彼の命令は絶対である。それでも、零次に皆がついてくるのは、防衛大臣の子息という政治的背景と、彼の能力の高さに由来するものだ。

 零次が無線でヘリを呼び戻した直後、別のチャンネルから受信(コール)があった。


 「なんだ…アルタイルリーダー」


 〈こちら旅団本部。アルタイル小隊、現在旅団長がそちらに向かっていますので、待機してください〉


 「了解。総員、待機。ノワール01、02、戻ってその辺に着陸しろ」


 〈01、了解〉


 〈02、了解〉


 ブラックホークが着陸する時には、第17旅団長陣内総司陸准将が基地内移動用のSUV車でやって来た。


 「お疲れ様です、准将」


 「悪いな、気合入っているところを邪魔して」


 陣内旅団長は敬礼をする零次に答礼をしながら、急な訪問を詫た。この戦争の緒戦とも言える、千歳駐屯地攻防戦では第72戦車連隊長として90式戦車を乗り回した猛者で、現在は第24戦車大隊の大隊長として、高級幹部であるにもかかわらず10式戦車を乗り回している。

 零次たちをこき使う、もとい、能力を買っている准将の後ろには、背広姿の官僚らしき人物と、元戦場カメラマンと言う新日本テレビネットワーク(NTN)の羽鳥真司記者がいた。零次たちは羽鳥記者から何度か取材を受けており、某新聞社の偏向報道をする上に作戦行動の邪魔をして出禁になった記者との対比もあり、かなり中立的、批判すべき箇所は批判し、尚且つ戦場の作法とマナーを弁えた人だ。

 一方、背広の男性とは面識がない。


 「紹介する。外務省の織田事務次官だ」


 「はじめまして、織田美奈都と申します」


 「あ、どうも。第17旅団第3偵察隊第5小隊長、不知火零次一等陸曹です」


 外務官僚の親玉と言えるポジションながら、若く物腰もやわらかな事務次官に、一瞬戸惑いつつも自己紹介をする。


 「貴方が不知火一曹ですか…噂は聞いていますよ。自衛官初の魔術師にして、不知火防衛大臣のご子息」


 「言うほど大した人間ではないですよ…ただ上からの命令に従って、敵兵を殲滅するだけの人間ですから」


 「謙遜することはないかと…これでも、若い頃は自衛官を目指していたもので、尊敬と嫉妬の念をいだきますよ」


 「はぁ…」


 「明日からの外交交渉…先鋒の偵察部隊、よろしくお願いします」


 「あ、はい」


 零次たち第17旅団は、ここから西のヴァレント市国に部隊を駐留させ、北部戦線側面への前方拠点を確保することになっている。

 ヴァレント市国は、地形的な問題で大陸横断鉄道が通っていながらもアルテリア軍の侵攻を免れている。拠点を確保したい自衛隊と、対アルテリア軍防衛能力を獲得したい市国政府の利害が一致し、今回の部隊派遣が決まったが、一部の外交交渉が残っているため全権使節として織田事務次官が一緒に派遣されることとなった。

 その護送部隊を含む先遣部隊が先発し、171戦闘団本隊と中央輸送集団第1鉄道輸送隊が派遣される予定になっている。本来なら、非戦闘員である官僚や随行員は本隊と共にか、本隊到着後に派遣されるべきだが、ヴァレントへの部隊派遣をめぐっては国会で議論が紛糾、させられているため、政治屋を納得させるべくこういう状況になってしまっている。


 「現場の部隊の方には、邪魔なお荷物でしか無いとは思いますが、仕事の邪魔はしませんので」


 「そういうことなら…政治外交は専門外ですので、そちらに関してはこちらこそよろしくお願いします」


 戦争も外交手段の1つだ。つまり、戦争には外交官も重要な戦力だ。親が政治家だけあり、零次もその辺りは弁えている。


 「…で、羽鳥さん。せめてシャッター音だけでもオフに出来ませんか?」


 「え〜?新進気鋭の自衛官と外交の最前線出身事務次官のツーショットって、なかなか撮れないでしょ?」


 「知らないですよ。言っておきますけど、この辺は国境を越えれば戦闘地域ですから、撮影は最前線指揮官の許可を要しますからね」


 「その辺は大丈夫。撮ったところで、どうせカメラごと没収されるのは知ってるから。お陰でイラクじゃ、両脇を米兵に固められて大変だったよ」


 「ああ…イラク戦争ですか。あの頃、在イラク大使館勤務でしたけど、目と鼻の先にトマホークが落ちたりして」


 「…あの、旅団長」


 「なんだ?」


 「この2人、俺より戦場経験長そうなんですが…」


 「お前、戦場に出てから1年半しか経ってないだろ?じゃ、この2人の方が長いよ」


 「…」


 零次は、この外務官僚と従軍記者を敵に回してはいけない要注意人物のリストに書き込むことにした。


 

 1530時


 「零次ぃ!」


 「あ?あぁ…レインか」


 「リアクション薄…」


 知り合いのレジスタンス、レイン・ヴェルカは、零次のリアクションの薄さに若干引いていた。

 語りだすと長いが、訳あって祖国であるアルテリアから逃亡し、レジスタンスに加わっているという17歳で、元々熱血バカな性格だったのだが、零次たちを含む知り合いや仲間へのツッコミ癖がついた結果、冷静なキャラになってしまっている。とは言え、元は帝国貴族だったようで、かなりの教養があり武術も長けているため、ツッコミ癖がなくても彼を”バカ”と評するのは不適当かもしれない。


 「今日はまたどうした?」


 「どうしたじゃない。ヴァレントの北西部との通信網が寸断されて、連絡がとれねぇんだ」


 「まじか…」


 大規模な設備を要する割に、最初期のインターネット程度、辛うじてデータ転送が出来るだけの通信網がこの大陸の重要なインフラだ。ラグ無しで、音声だけでも送れるのと、そうでないのでは情報伝達能力に決定的な違いが生じる。


 「今、ヴァレント市とエアプの街との通信チェックを行っているはずだけど、万一通信線が寸断されていた場合に備えて、馬走らせて来た」


 「わかった、旅団長に報告する。ついて来い」


 「わりぃ」


 零次はレインを連れて陣内旅団長の元に向かった。


 「…状況はわかった。通信チェックの件はこちらから確認してみる。中央と市ヶ谷への報告は俺が行っておくから、零次は即応体勢をとれ」


 「了解」


 「あとレイン、君に通信機を貸与しておく。零次、お前の小隊に配備されているJPRC-C5を1台、大至急用意しろ。あれなら、前にレジスタンスに使い方を教えたはずだ。後は、連接できるIRカメラと…」


 「広帯域多目的無線機(コータム)は?暁作戦前のシステムアップデートで、衛星通信機と連接できます」


 「わかった。すぐに用意しろ。レイン、詳しい話を聞きたいから少し残ってくれ」


 「わかりました」


 「了解。不知火一曹、直ちに作業にかかります」


 零次は、すぐに小隊の機材から衛星単一通信携帯局装置JPRC-C5を準備する。JPRC-C1の後継機で可搬式の衛星無線機だ。先代よりも6キロも軽量化された重量3キロで、1回の充電で丸3日の連続使用が可能な性能を持つ。


 「浩一、衛星アンテナの帯域は旅団本部との固定回線に」


 「了解」


 小隊第1班通信士、細谷浩一郎二等陸曹はJPRC-C5の設定をいじり、扱いなれないレインが迷わず使用できるように帯域を固定させる。


 「コータムは?」


 「チャンネル0980で、コードはデルタ、ブラボー、チャーリ、ズールー、フォックス、113702、タンゴ、ジュリエット、908」


 「了解。うちの無線機を連接させます」


 準備のできた無線機をレインに持たせると、彼は馬を走らせ国境を再び越えていった。

 直後、旅団の各部隊指揮官が旅団長に呼び出された。


 「先ほどの通信網寸断の件だが、ヴァレント市とエアプとの間での通信網に異常はなかった。現在、ヴァレント政府の同意のもと偵察機が領空侵入し、偵察を行っているが、敵部隊発見には至っていない。それにより、ヤタガラス作戦は当初の日程通り実施する。ただし、作戦内容に一部変更がある。先遣部隊に、戦車小隊1個、対戦車小隊1個と派遣し、171CTの派遣予定時刻を早める」


 「先遣部隊はどのような編成になるのですか?」


 零次の隣りに座る萩久人陸曹長が質問を飛ばした。第57普通科連隊第1対戦車小隊、つまり中距離多目的誘導弾を装備したミサイル部隊で、ヘリ部隊の支援がなければ対戦車火力が殆ど無いアルタイルの支援に回ることも多い。


 「先行偵察にアルタイル小隊を回す。外務事務次官護送に…宮内一曹、君のCH−47JA改(フルート03)を回してくれ」


 「了解」


 宮内絵理奈一等陸曹は、すぐに輸送ヘリのフライトプランを組むべくメモを書き始めた。


 「随行戦闘員はどうしますか?」


 「スレイプニル小隊を当てる」


 「では、チヌークをもう1機回します」


 「わかった。護衛に第1攻撃ヘリ中隊から1個小隊、人選は中隊長に一任する。地上部隊として、ワルキューレ小隊、スレッジ戦車小隊、あと…久人、お前の対戦車小隊を回す」


 「げっ…」


 「作戦開始を明日0400とし、その時間でアルタイルは総員出撃。0430時、先遣部隊は全部隊出撃し、戦闘団本隊は0600時に出撃する。総員、直ちに準備にかかれ!」


 「「「了解!」」」


 

 翌日0355時、同基地第3駐機場


 「我が隊の任務を再通達する!目的は、要人護送部隊に先んじて地上及び空路の偵察だ!」


 生憎の雨模様の中、零次は小隊員全員を集め、出撃前の最終確認を行っていた。


 「交戦規定は?」


 「タクト、お前はお構いなしに突っ込んでいく気満々だろ?」


 好戦バカと言う扱いのタクトは、ムッとした表情になった。これでも、初年度階級が三等陸曹でなかなか優秀なのでが、普段の行いの問題らしい。


 「交戦規定は、攻撃してくる奴は敵と認識しろ!非戦闘員は絶対に巻き込むな!ただし、敵は徹底的に排除しろ!以上だ!」


 「「「了解!」」」


 「よし…アルタイル小隊、ヤタガラス作戦に着手する!総員、出撃!」


 ヘリのエンジンに火が入り、低騒音高効率ローターが高速回転を始め、装甲車や高機動車のエンジンがタイヤに回転を与える。

 零次以下第1班はブラックホークに乗り込み、残りは96式装輪装甲車2両、高機動車2両、軽装甲機動車2両、16式機動戦闘車2両で編成される地上部隊として行動する。


 「よし、友樹いいぞ!」


 「了解!エアプタワー、こちらノワールリーダー。離陸許可を願う」


 〈こちらタワー、離陸を許可する。地表面風速は北北西の風8ノット、各高度帯で乱気流の可能性あり〉


 「了解。ノワール編隊、離陸する」


 2機のブラックホークと4機のAH-64Eアパッチガーディアンが離陸し、一路西に向け針路をとった。

 

 これが、この日の長い戦いの始まりであることを、彼らが知る由もない。


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