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物事の背景

 第2世界と言う識別名称で呼ばれる異世界での戦争に、自衛隊が参戦したのは2015年のことだ。

 

 2014年10月20日、大阪で発生した大規模市街地戦を伴う複合テロ”大阪同時多発テロ”により、国内世論が右傾化していた2015年8月17日。異世界と繋がる”通路”が、お台場、横浜、千歳、福島、大阪、広島の6箇所に出現。その内、2箇所である千歳と大阪の通路から、アルテリア帝国軍が越境攻撃。政府は自衛隊法第76条に基づき、防衛出動を発令。

 その後、アルテリア帝国軍に侵攻されている通路の反対側の国々と国交を締結し、10月16日に自衛隊派遣要請が行われた。これに伴い、日本は同月28日に第2世界自衛隊派遣法と改正自衛隊法を可決。

 11月27日に海兵自衛隊と自衛隊統合派遣部隊、JSDF-UnificationDispatchForceを設立。翌日からUDFの派遣が開始された。

 アルテリア帝国軍占領下の通路2つの内の1つ、千歳市と繋がる甲目標第03号通路が2017年10月4日に制圧され、自衛隊の当面の目的は、大阪と繋がる甲目標第05号通路の制圧となった。だが、通路の制圧するだけでは、この戦争の終戦は見込めない。

 アルテリア帝国軍は、第2世界の南半球に浮かぶアルスタール大陸の半分以上を占領している。つまり、甲第05号を制圧した程度では、少し戦線を押し返した程度にしかならない。恐らく、アルテリア帝国は停戦協議にも応じないだろう。

 そのため、多くの有識者や政府関係者は、この戦争がアルテリア帝国軍占領地域をすべて解放するまで続くと見ていた。反戦派の中には、太平洋戦争の長期化が日本の敗戦の原因であるように、早く戦争から手を引かねば日本が再び敗戦国になると主張していた。

 だが、この戦争は太平洋戦争当時と事情が違う。

 日本政府は、同盟国となった各国との経済連携協定を締結し、石油や鉄などの資源供給源をより平和的かつより確実に確保し、その上で第2世界ではあまり利用されていない一部の資源の採掘権を獲得。国内需要のほとんどを賄うと同時に、一部のレアメタルなどは輸出を開始した。結果、資源と財源にはむしろかなりの余裕が生じ、各国から見れば日本は最大の顧客、日本から見れば有望で平和的かつ合法的に独占できそうな魅力的な市場であった。

 この利害関係は、国家間の結びつきをより強固なものにした。

 

 一方、前線の自衛官たちは、あまり政治の話は意識していない。

 彼らにとって重要なのは、早期の戦争終結を目指すべく、最小限の犠牲で最大限の戦果を上げる事だった、

 この戦争は、自衛隊が初めて経験する戦争であり、黎明期の自衛隊であれば旧軍出身者がいただろうが、21世紀の現在ではそういうわけにもいかない。

 防衛省が交戦規定を確立するのに、小説やアニメを参考にしたのは有名な話だ。

 なにせ、敵は魔物やら魔術やらを使ってくる異世界の軍隊だ。戦車や装甲車、艦船は、第2次大戦期からベトナム戦争初期時ごろまでの性能があり、搭載されているエンジンも同程度の性能があったが、やはり電子技術や材料工学は大きく遅れを取り、戦術も日本側で古い時代のものとされているものだった。

 だが、魔術師は歩兵に高いレベルの対戦車火力を与え、爆発反応装甲で被害を抑えられるようになっても、車両の被害の奥を占めていた。魔物は、陸海空それぞれの環境に適応した種が投入され、対応戦術が確立していない初期の頃は甚大な被害を出した。

 技術的、戦術思想的なアドヴァンテージが日本や技術提供を受けた同盟国に利があるとはいえ、物量差や各国がこれまでに受けた被害、日本の国内世論と対外関係もあり、戦争が思うようにいかないのが現状だった。

 それでも、着実に戦線を押し返していた。


 日本の戦争計画で何より問題になったのが人員だった。

 兵器工場を動かすにも、兵器を運ぶにも、そして使うにも、人手が足りない。

 工場に関しては、工場の現地化、工場そのもののオートメーション化で対応したが、自衛隊の人員不足は深刻だった。

 その結果、実施されたのが採用年齢の引き下げと難民などの外国人の積極的採用。

 後者、アルテリアへの復讐を誓う多くの難民が志願し、さらに日本の右傾化に伴い肩身の狭い思いをしていた在日外国人が、日本への恭順の意を示すべく志願した。UDFの戦力の3割が外国人だ。

 一方、前者は、志願の場合は認められるとはいえ事実上の少年兵の投入を意味する。中学卒業者を対象とした採用枠で、野党やマスコミは”少年自衛官”と呼んだ。この呼称は、やがて防衛省も公式な表現として使うようになったが、国際社会は激しく避難した。

 特に中国と韓国のマスコミは、日本の軍国主義の復活だの、平和国家の化けの皮が剥がれただの、連日の様に日本批判合戦を繰り広げた。

 その無駄な議論が沈静化したのは、大物政治家の息子ということでメディアのターゲットにされていた1人の少年自衛官だった。

 

 彼が戦場に向かう日、マスコミが彼への取材に成功した。

 マスコミは、彼が戦場に行くのは親に強要されたためと勝手に思っていた。

 

 「戦場には自分の意志で向かう」


 彼はそうはっきりと言った。

 中学を卒業したばかりの若者は、マスコミを質問をすべて論破した。その眼には、目の前のカメラとマイクと記者への憎悪が篭っていた。後にマスコミは彼の初恋の人が、自分たちの偏向報道が原因で自殺したことを知った。

 

 彼の言葉がテレビに流れた直後、自衛隊への入隊希望者は増加した。

 志願者は口々にこう言った。


 「自分たちも、自分の意志で戦場に立つ」


 大人たちは、若者たちが誰の指図も受けず、自らの意志で歩くのようなったのだと悟った。


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