他国の情勢と思惑
備中 成羽 鶴首城 明石 全登
しばらくして私は考えてから、三村の次男の近臣になった。最近は勉学や武芸、遠乗りにも付き合っている。
勉学の際、私は主君に尋ねてみた。
何故、火縄を増やそうとしているのかと。
逆に火縄を欲しがる敵勢力が攻めてくるのではとも。
『俺は備中を俺なりに守ることを考えている。この国の周辺を考えてみろ。陶を厳島で破り、大内氏を滅ぼした毛利がいる。
毛利はたしかに同盟国だ。とはいえ、今は戦国の世、どうなるかわからない。
北には毛利の調略にかかり、新宮党を潰したとはいえ、尼子がいる。
晴久もいれば、そこには山陰の麒麟児こと山中鹿之介がいる。
東はお主の旧主もいれば、旧主の同輩で毛利の大殿にも劣らぬ宇喜多直家という謀略家もおる。
そんな中で生き残りを考えていかなければならない。
だからこそ、火縄をそれらより多く揃え、有効な火縄による部隊運営を考えている。
火縄を揃えるために国力や資源を利用した技術力を高める
。備中を攻めたらただでは済まさないという抑止力だ。
後は家臣団の引き締めを行う、謀略家がいるとしたら内部崩壊を考えてくるだろうからな』
私は合点した。
堺への旅はその為の布石だと気付き、自分の使えた主人の考えを知った。
そうなるとまだまだ主人を支える人材は乏しいと言わざるを得ない。
安芸 吉田郡山城 毛利 元就
備中の報告を聞いて寒気を感じた。
三村は本格的に火縄を増産し始めたようだ。
あの二男坊は富国強兵策を練っている。
息子達や宍戸にもなんて答えるか聞いてみるとしようかの。
元就は息子達や宍戸隆家を呼び寄せた。
隆元が代表として「お呼びでしょうか。父上」
元就は頷き、「お前達の意見を聞こうと思っての。備中の三村のことよ。どう見る」
四人は顔を見合わせ、顔色を変えた。
隆元「それは」
隆景「闇雲に火縄を求めているのではない。まるで備中を守ることを考えている、わからないが、他国への侵略も企図してるかも、何もわからない。」
元春「火縄による部隊の運営もかなり進めている。
報告書を読んだら寒気がした。あれをされたら、どれほどの犠牲を出すか知れたものではない。」
隆元「報告だけで判断するのは難しいぞ。」
元就はため息をつき、「まあ、それは置いておこう。いずれ会うことになるし、隆家殿にも考えておいて欲しい、二男坊の器量次第ではな」
四人は何を企図してるのか悟った。
備前 岡山城 宇喜多 直家
直家は猛烈な頭痛を感じていた。
隣国備中の動きを見てとても攻めようという気になれない思いがあった。
『家親一人でも苦労しているのに、その二男坊がもし後を継いだらどのようなことになるか、儂が毛利元就なら取り込むことを考えるだろう。
そしたら益々手出し出来ぬわ。
備中を手に入れたら備前、美作に手を出してくるとなると、仕方ない、いずれ尼子と組んで備中を襲うことを考えてやる。
まずは浦上を追い落として備前を統一してからだ』
備中の襲撃は尼子晴久が亡くなったことで、画餅することになり、再度、山中鹿之介に打診して決行されたが、大失敗に終わる。
この二年後、俺は元服して毛利元就の諱の一つを貰う許可を得て元親と名乗りました。
と同時に初陣として毛利の出雲遠征に来るようにとのありがたいお言葉もついでに貰いました。
元親『あれだけ露骨に増強したら、気付くわな。まあ、こちらとしても会いたかったから問題はない。
連れて行くのは明石にして伯父上には残留して貰おう。
火縄を持って行く気はさらさらない。
浦上と構えている宇喜多はまあいいが、他の尼子方の国人への示威のためだ。
火縄の保有、千五百越えたからな。後倍いや三倍、五千はいる。
これからは猿対策を行なって行くか。
備中高松城の改修を徹底的に手を抜かずにやろう。
どうやら今日、その将来の城主がお目通りだ。』
一族の石川久智が連れてきた。
清水宗治がついにやってきたのだ。
俺は元服の宴の後、彼を呼び、これからの備中を如何にするかを尋ねた。
宗治は無難な答えと毛利との提携を繰り返し説いたこと、宇喜多への備えを油断なく、攻めることなく守りを強化すること、家臣団の一致団結を求めることを返答としてきた。
元親は頷き、「いずれ、宗治、御主にも力を貸してもらいたい。
近い将来、父にも忠告するが、備中高松に城を築くことにしている。
お主に守って貰いたい。宇喜多の侵攻を阻め、勿論、火縄も好きなだけ、持っていくとよい。
最後は城は出来るだけ高くして築くように。」と告げてから宗治に下がるように命じた。
俺は暫く、領内を見て東からの侵略を考えてみた。
『山陽、山陰の他に、美作を通った山の間を使った道を使用することも考えておかないといけない。現代で言うと中国自動車道を使ったものだ。三つあるから侵略する道は限定されてる。猿がどの道を使うかによるから守りを強化しなければならない。後は毛利がどう動くかによる。
両川は助けてはくれるが、問題は輝元だ。
頼むから日和見なんてことはしないでくれよ。それにしても大御所は私を取り込むことを考えてるか
大御所の先は短いから輝元の心配が尽きないという思いから引き込みを考えたのだろう。長男の早すぎる死に両川が関ヶ原前に亡くなったことが毛利の道行きがおかしくなったからな。
だが歴史はかなり変わってるからこの先はわからないな。
毛利の一族になったら、狸に付くことをしなければならない。
関ヶ原で東軍に付くことを念頭に、あの坊主を放逐するなり、蟄居させるなりして発言権を無くす必要があるだろう』と思いを巡らしていた。