信政の秘密と祝言
備中の国 備中松山城 三村元親
頭痛の種がやって来て、挨拶をしている。
確かに美人だわ。
あの猿が夢中になるのもわからないでもない、市への憧憬と言うか、似ていたと言う話も
あったからだろう。
松の丸を見ると、笑みを浮かべているが、茶々の挨拶の言葉、『義母上様』と言う言葉をわざわざ強調していた。
その都度、松の丸は引き攣っていた。
わざと茶々は言っているようだ。
茶々と松の丸は目を合わせると火花が散って殺気が満ちている感じがした。
なんか、生き生きとしている。
正に、関ヶ原だな。
美人同士の対戦は凄まじい。
醍醐の花見の際にこの二人が杯の取り合いを
したり、仲が悪かった。
松の丸と茶々の家格は松の丸の方が上らしかったことも、確かに松の丸は京極家、名門だ。
母親は浅井長政の妹。
茶々は浅井、京極家の家臣だったからだ。
俺や秀親、恒興や忠興などは何度となく戦場に出ているが、あまりのプレッシャーに言葉はなかった。
俺は内心、第六天魔王に、家庭内に不和を引き起こしおってと罵りたくなった。
『茶々殿、まあ、ゆるりと休まれるが良い』
勇気を引きしぼって言った。
秀親に『祝言を挙げたら、さっさと因幡に行け』と言っておいた。
同上 松の丸
よりによって、織田様に文句を言った挙句、
粉砕され、否応なく、天敵が秀親殿の相手になるとは、予想もしなかった。
義母上様と呼ばれるのは、あまりにも。
これが初や江だったら良かった。
恐らく私を名前で呼んでくれた筈。
茶々が下がり、池田恒興殿に出立の際の様子を尋ねた。
『茶々は意気消沈し、市様は手を振って送り出し、初と江は少し悔しそうな表情だったらしい。』と。
殿は『そうか』、ため息をついていた。
本当は初が嫁ぎたいと言っていたのを、茶々が暴走した結果、叔父に粉砕されたと言う。
茶々が叔父に抗議したからか。
黙ってれば、良かったのに、余計なことを。
迷惑な話です。
殿は『あれの取り巻きは、儂が連れて来させないようにしたわ。
将来、碌なことにならぬから』と。
乳母と乳兄弟は常にベッタリだったから、良かった。
秀親殿には『近江出身の三成や吉継、高虎は
因幡には向かわせない。
秋上、亀井、行長を内政に向かわせる。
我が儘は許さぬようにな。
釘を刺しておくように』とも。
余程、殿は茶々殿の素行の悪さと近江出身者を偏重する可能性があるのではないかと、警戒しているようだった。
秀親殿も下がり、池田恒興殿と殿は話をしている。
『恒興殿、信長様はどのようにして、抗議しに行った茶々殿を粉砕したのか、聴かせて欲しい』
恒興『勇気を振り絞って、拒否されていたのですが、上様は、《いつまでも浅井の世話になり、生きる気か。
平和な時代を作るためにも嫁いで貰う。
しばらく、ここで頭を冷やしておけ。》
と怒気を発して、茶々殿の抗議を一蹴しておりましたわ。
茶々殿は怒気と覇気に当てられ、何も言えないまま、安土に留め置かれました。
しばらくして敦賀に帰られました。
敦賀でも長政殿にも絞られたようだ。
その後は浅井に書状を祐筆に書かせ、縁組の受諾と準備をされておられ、某に護衛を』
殿はそれを聴いて手で目を覆っていた。
私は『茶々が、余計なことをしなければ、初が来ていた』
殿は『これなら初にと、当家から言えば良かったわ、儂の間違いか』
と嘆いていた。
殿はすぐに安土に書状を送り、秀親と茶々を連れ、安土に向かう書状を書いた。
同上 池田恒興
縁組は良いとして、越後のことを話さねばならぬ。
『元親殿、越後の乱が終わり、近々、上杉景勝殿が上様に謁見されると言うが、やはり』
元親は気を取り直して『降伏であろう。越後、佐渡を任せれば良いさ。
そうなると武田と北条はどうなるのやらだ。
上杉が降ったことを武田と北条に伝え、反応を半年から一年様子を見て、何事もなかったら、答えは出るであろう』
元助が『遠征になる』
元親は頷き、『あの将軍家は秋田に逃れたら、海で南に来る可能性もある、長くは国を開けられぬ、どうしたものかな。
武田はともかく、北条の小田原は難攻不落、
法性院や不識庵が攻めても落ちなかった。
毛利がやった尼子の月山富田城を参考にしても良いさ』
儂は『息子達の教育、宜しくお願いしたい、
小田原の件は上様に伝えておこう』
儂は息子達とともに宿舎に戻って行った。
同上 茶々
山深い城、小谷に似ているようだ。
秀親殿の父、元親殿は遠国、近江にも鳴り響いている名将。
まだ、織田に付く前から、如何にかの名将と戦うかで父は悩んでいた。
母にも愚痴を漏らしていた。
叔父も自身より多くの火縄を持っていることで、西に兵を向けるのを少し躊躇っていた。
わたくしも彼らの悩みを聞いて育ったようなものだ。
しばらくして、毛利、三村が叔父に付き、人質として来たのが、秀親殿だった。
秀親殿は人質だったが、叔父の側に仕えていた。
偶に美濃に来た、わたくしや初や江の話し相手になってくれた、初や江とは仲が良かった。
兄の信政は元親殿に会って話がしたいと、言っていた。
叔父や父の部下達が元親殿のことを高く評価する中、わたくしは元親殿や秀親殿を評価できなかった。
何故、商人の真似までするのか、理解できなかった。
母に送られてきた柚餅子をわたくしは食べようとしなかった。
兄は、『面白い、まさか・・・な』と呟くように何事か漏らしていたのを覚えている。
越前の国 敦賀城 浅井 信政
茶々が三村に嫁いだと言う話を能登から帰って聞いた。
第六天魔王に無謀にも抗議したらしい。
私がいれば、上手く捌き、秀親殿に初を嫁がせたものを。
初はショックを受けていたようで、臥せっている。
下手に励まし辛い。
三村か、本来なら、浅井と同じく滅びていた。
どうみても、元親殿は転生者だろう、私と同じく、私も転生して万福丸と聞いた時、魂が抜けかけたわ。
近江ゆえ、天下を狙うより、越前の朝倉を切り捨てる必要があった、浅井が生き残るには。
まず、手始めに、時勢の読めない、愚かな祖父をさっさとあの世に退散させ、朝倉を第六天魔王や狸と潰した。
第六天魔王から、越前を得た。
一向一揆相手はかなり大変だったが。
人材はさあ、三成、吉継、高虎らを在野から得ようとしたら、三村に取られていたし、仕方なく、甲賀の忍びや三成らに匹敵する内政家、増田長盛、長束正家。田中吉政、渡辺了中村一氏らを得た。
従兄弟の京極兄弟や竜子も同じく三村に取られた。
しかも竜子は三村の継室になってしまった。
正室は元就の孫娘を得たと言う話をきいて、
愕然とし、歴史が大きく変わったと思うようになった。
とにかく、秘密裏に三村と話をしなければ、その前に秀親と初のことを第六天魔王と話さねば、茶々も初も不幸になるだろう。
母にこのことを話したが、『兄上の説得は無理ね、茶々が出しゃばらなければ、初が輿入れする予定だったのは分かるけど、とりあえず、やれるだけやってみましょう』
母と共に第六天魔王に会った。
近江の国 安土城 第六天魔王
越前から市と信政が来て、茶々の輿入れの件で話を聞いた。
言うなれば、茶々が出しゃばらなければ、初が備中に向かう筈だったと言う。
元親から謝意と息子の縁組の件で話をしなければならないと言うから、秀親と茶々を連れて、安土に向かっていると言う。
二人に『三日後にも備中守が来ると言う、その時に話をせよ。すぐに初を安土に来るようにせよ』と命じて、下がらせた。
『早々、祝言を上げてなかったのは、良かった、どう言う理由をつけるか』
恒興を呼び、『祝言の相手が変わる可能性がある、まあ、非公式ゆえ、良かったが』
恒興はため息をつき、『結納品などの荷物から、分かるものには分かるかと』
儂は『噂を上手く流せ、茶々が備中に行った理由は、元助や忠興と同じ理由をつけてやれ』と。
噂が多く流れ、正誤の判断が民衆にはつけられなかった。
同上 三村 元親
とりあえず、第六天魔王と会い、今回の件の謝意を告げた。
第六天魔王は『まあいい。騒がせた罰として、東方遠征に連れて行くから覚悟しておけ。
初を嫁がせることに致すゆえ、準備は良い、
ここでするが良い』と。
市が『兄上?』
第六天魔王は『長政らも既に呼んだゆえな。それと茶々、出しゃばらなければ、無駄骨を折らせたから、罰として、無条件で輿入れさせるから覚悟しておけ』
茶々は頷かざるを得なかった。
二か月後、安土で、第六天魔王主催による秀親と初の祝言が行われたと言う。
二カ月の間、空気が全く読めてないどっかの痴愚が縁組に反対し、第六天魔王の逆鱗に触れ、領地没取とお零れを貰う憂き目にあった。
痴愚の城は五男いや四男が引き継いだのは、別の話。