姦雄の死と後継者問題
備中の国 備中松山城 三村元親
史実から滅亡する筈だった年から七年がたちました。
隣国の謀略家が亡くなる筈だが、聞いた噂では臥せっている。
今迄の悪行の報いでも受けたようだ。
治ったら前非を悔いて頼むから悔い改めてくれよ。
長生き出来るだろうからな。
無理だろうけど。
俺はあの謀略家が亡くなった場合のことを考えている。
後は誰が継ぐのか。
弟の忠家殿か、幼年の八郎殿か。
あの油断ならぬ謀略家のため、亡くなったとしても、油断出来ぬ。
亡くなったことすら、謀略の出汁に使う可能性だってあるのだからな。
そんなある日、播磨にいる猿と軍師が訪れていた。
同上 黒田官兵衛
始めて備中の三村元親殿に会った。
噂通りの方であり、なるほど、あの毛利元就殿が高く評価するだけはある。
秀吉殿と宇喜多の件で話をしている。
八郎殿が継ぎ、忠家殿が補佐したらどうかと言っている。
周りの家臣が納得するかどうかとか。
忠家殿が継いだ時、八郎殿が成人した時や忠家殿が亡くなった時、揉めるだろうということも言っている。
信長様の裁量を仰ぐしかないとも。
やはり結論が出ないようだ。
下手したら、内乱になる可能性もある。
気をつけなければならない。
しばらくして宇喜多和泉守直家が亡くなった。
やっと謀略家のプレッシャーから開放され、
俺は息をついた。
継室の竜子はそれを見て怪訝そうな表情で見ていた。
南近江 安土城 第六天魔王
備前の姦雄が亡くなったと言う。
大和の松永弾正と変わらぬ男ゆえ、油断がならなかった。
後継で揉めるであろう。
八郎は確かに幼年だが主筋、忠家が継げば、今人質としている詮家に後継が移る。
忠家は信頼出来るし、警戒は抱かれぬ。
他国いや元親が安心するだろう。
八郎が継いだとして、後見は忠家だ。
どのみち忠家が継ごうが、継ぐまいが、宇喜多は彼が動かすだろう。
名実共に、忠家に任せるか。
その場合、儂が八郎を預かる、悪くない。
別家として立てるも良いだろう。
忠家が後継に八郎を選べば、ここにいる詮家と揉める。
猿は八郎の後見を買って出ようとしているが、そうはいかぬ。
寧々が、儂に色々愚痴っておった。
側室が増えて、腹に据えかねている。
特に八郎の母親は西国屈指の美人、側室に考えておるのであろう。
待て、元親に八郎の教育係をやらせてみるか。
あれから国主としての心構えを学ぶようにするか、そう言えば、若い蒲生や信澄が、あれから内政について学びたいと言う申し出があった。
儂も教えてほしいくらいなのだ。
産業開発について。
よし、決めた。
書状をしたため、光秀を呼び、備前に行くように伝えた。
備前の国 岡山城 宇喜多忠家
織田様より書状がと言うより、明智日向守光秀殿が直々に参られた。
その席には、私、羽柴筑前、黒田官兵衛、前田、兄の奥方のお福殿、戸川、花房、長船らも呼ばれ、もう一人呼ばれているらしい。
誰が来るのか。
しばらくして、一人の武将と二人の人物を従えて入ってきた。
私と家臣達は愕然とし、息を呑んだ。
明智殿が『ようこそ、三村備中守殿。』と。
同上 三村元親
明智から手紙を貰った時には驚き、丸目と左近を連れ、備前の岡山城に向かった。
明智は猿、犬に宇喜多忠家殿やあの美人、俺を集めて、宇喜多の今後についての発表を行うと。
俺は先に宇喜多の遺体と対面し、香を献じて部屋から出た。
宇喜多の家臣は呆然として、見送った。
明智は第六天魔王の書状を読んだ。
1、宇喜多和泉守直家殿の後継は忠家殿。
2、忠家殿が八郎殿が成人していない際、亡くなった場合、詮家殿が継ぐ。
3、忠家殿が八郎殿が成人していた際、亡くなった場合、八郎殿が継ぐ。
その際、詮家殿は別家を立て、美濃に領地を与えることとする。
お福殿が『明智様、その忠家殿が継がれるとありますが、八郎は?』
光秀『今から、申し上げるが、お聴きになるか、お福殿や宇喜多の家臣達にとって受け入れ難いことだが、あえて、発表する』
明智は俺を見た。
4、忠家殿が継がれる際、八郎殿が成人するまで、織田家で預かることを考えたが、隣国、三村備中守元親殿に預けることとする。
俺はこれを聴いて、溜息をついた。
猿や犬も愕然とし、忠家殿や戸川、花房、長船らは息を呑んだ。
お福殿『なっ、何故』
俺は『日向守、誠に書いてあるのか。』
光秀は俺に第六天魔王の書状を見せた。
俺は『だから、呼んだのか、ここに』
光秀は頷き、『これが履行され、為された確認出来るまで、安土に戻れぬ』
犬『なるほど』
次に犬が書状を見て頷き、『言うなれば、元親殿から国主として、武将としての心構えを学べ、と言うことかな、これは。
考えてみよ。この西国で一番、国力が充実しているのはどこだ。
備中守殿のところだろう、儂とて息子の利長に備中守殿の所で学ばせたいくらいなのだ。
蒲生や信澄様も直々に学びたいとも言っていた、確かに、嫌だと言う思いは分かるが』
猿『しかし、隣国でその』
お福としても三村と宇喜多の確執を知って、恐怖を感じていた。
俺は、『私情にかられていたら、備中は火の海になっていただろう。
右府様は分かっているのだろうよ。
日向守、お福殿と八郎殿、確かに預かろう、それに八郎殿を使って備前を窺うことはせぬし、私から攻めることはない。忠家殿。
それをやれば、右府様に潰されよう。
預かる理由はそれだけではないな』
明智は笑みを浮かべ、『猿、これは、言うべきではないが、敢えて言わせて貰う。
お主のところの寧々殿が、右府様に愚痴を言っておった。
女癖が悪いから歯止めをして欲しい。
右府様は呆れておった、それで、治らなかったら、秀勝殿を返すように』と。
猿は一瞬にして灰になっていたし、犬と俺は口元を抑えていた。
光秀は『確かに、忠家殿が八郎殿を後見すると言う案も考えられたが、やはり、忠家殿が前にいようと後ろにいようと、変わらないとも』
お福殿は顔色を変えていた。
忠家殿は眼を閉じていた。
俺は内心は第六天魔王から押し付けられた宿題に頭を抱え、舌打ちしたい気分だった。
親成はともかく、他の一族から二人を守ることに気を使わないとならないとも。