こんな夢を観た「闇に潜むカナリア」
ショッピング・モールへ寄った帰り、夕立に降られてしまった。
「あー、降るんなら、もっと早く降ってくれなくちゃ。ソフトクリームでも食べながら時間が潰せたのに。それか、せめてあと15分、遅くに降って欲しかったな」わたしは走りながらぼやく。どこか、雨やどりのできる場所を探さなくては。
あいにく、商店街を抜けたばかりだった。引き返すくらいなら、このまま自宅まで駆けていった方が早い。
小路を折れたところで、古い大きな屋敷に気がつく。よく通る道なのに、今初めて気がついた。
「こんな洋館なんてあったんだ。まるで、映画に出てくるお化け屋敷みたい」
門は錆ついて崩れ、「さあ、お入りください」と誘っているかのようだった。玄関まで続く石畳はすっかり苔で覆われ、何年もの間、人が踏んだ様子が見られない。
バルコニーの下はちょうど雨を凌いでいて、地面が白く乾いたままだった。
「あそこでちょっと雨宿りしよう」わたしは庭の砂利を蹴り散らかして、玄関先まで走った。
ハンカチで濡れた髪や肩を拭いていると、どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。
どうやら扉の向こうかららしい。
「中に入り込んで、出られなくなってるのかもしれない」
わたしは扉のノブを、そっと回してみた。鍵はかかっていない。軋んだ音を響かせて、扉は重々しく開いた。
「やっぱり、中は真っ暗だ。映画じゃ、自分からわざわざ入り込むものだけど、そんなばかな人はいないよね」
また、鳥のさえずりが聞こえた。今度ははっきりと、奥から。
「あっ、この鳴き方はカナリアかもしれない」以前、実家で飼っていた黄色いカナリアを思い出し、つい一歩踏み出してしまう。
背後で扉がバタンと閉まり、たちまち暗闇に包まれた。
「慌てない、慌てない」バクバクいう心臓を押さえながら、自分に言い聞かせる。「そのまま後ろを向いて、ドアノブを手で探ればいいだけのことなんだから。ドラマじゃ、パニックを起こして走り回ったりするから、よけいにひどい事態になるんだよ」
わたしはゆっくりと体を反転させ、扉のある辺りに手を伸ばした。
ところが触れられるものは何もない。
「あれっ、もっと左だったっけ? それとも右?」わたしは両手を振り回して、あちこち探る。
扉はどこにも見つからなかった。闇とともにかき消えてしまったかのように。
わたしは泣きそうになって歩き回った。木の床のぎしぎしいう音はするものの、どこまで行っても壁に当たらない。
「そんなはずはっ!」もう、落ち着こうなどという気持ちすら思いつかなかった。あるのはただ、恐怖と不安だけである。
物や柱にぶつかったっていい、そんな気持ちで駆け出す。半ば、ヤケだった。
いくら走っても、果てしない空間ばかりが続く。
すっかり息が上がり、膝を折ってぜいぜいと喘ぐ。
すると、彼方からカナリアのさえずりがかすかに聞こえてきた。
「また、カナリア……」
さえずりはだんだんと大きくなり、やがて羽音も混ざり始める。
「近づいてる。こっちに来てるっ」急に恐ろしくなった。あのカナリアはふつうの小鳥じゃない。闇から生まれた、まがまがしい生き物なのだ、そう直感が告げていた。
「逃げなきゃ」わたしはまた走る。束の間、さえずりが遠くなる。けれど、立ち止まれば、たちまち追いつかれてしまうことがわかっていた。
「逃げなきゃ……」
わたしは走り続けた。必死の思いで。
どこまでも、どこまでも。




