表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「闇に潜むカナリア」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/09/22

 ショッピング・モールへ寄った帰り、夕立に降られてしまった。

「あー、降るんなら、もっと早く降ってくれなくちゃ。ソフトクリームでも食べながら時間が潰せたのに。それか、せめてあと15分、遅くに降って欲しかったな」わたしは走りながらぼやく。どこか、雨やどりのできる場所を探さなくては。

 あいにく、商店街を抜けたばかりだった。引き返すくらいなら、このまま自宅まで駆けていった方が早い。

 小路を折れたところで、古い大きな屋敷に気がつく。よく通る道なのに、今初めて気がついた。

「こんな洋館なんてあったんだ。まるで、映画に出てくるお化け屋敷みたい」


 門は錆ついて崩れ、「さあ、お入りください」と誘っているかのようだった。玄関まで続く石畳はすっかり苔で覆われ、何年もの間、人が踏んだ様子が見られない。

 バルコニーの下はちょうど雨を凌いでいて、地面が白く乾いたままだった。

「あそこでちょっと雨宿りしよう」わたしは庭の砂利を蹴り散らかして、玄関先まで走った。


 ハンカチで濡れた髪や肩を拭いていると、どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。

 どうやら扉の向こうかららしい。

「中に入り込んで、出られなくなってるのかもしれない」

 わたしは扉のノブを、そっと回してみた。鍵はかかっていない。軋んだ音を響かせて、扉は重々しく開いた。

「やっぱり、中は真っ暗だ。映画じゃ、自分からわざわざ入り込むものだけど、そんなばかな人はいないよね」

 また、鳥のさえずりが聞こえた。今度ははっきりと、奥から。

「あっ、この鳴き方はカナリアかもしれない」以前、実家で飼っていた黄色いカナリアを思い出し、つい一歩踏み出してしまう。


 背後で扉がバタンと閉まり、たちまち暗闇に包まれた。

「慌てない、慌てない」バクバクいう心臓を押さえながら、自分に言い聞かせる。「そのまま後ろを向いて、ドアノブを手で探ればいいだけのことなんだから。ドラマじゃ、パニックを起こして走り回ったりするから、よけいにひどい事態になるんだよ」

 わたしはゆっくりと体を反転させ、扉のある辺りに手を伸ばした。

 ところが触れられるものは何もない。

「あれっ、もっと左だったっけ? それとも右?」わたしは両手を振り回して、あちこち探る。

 扉はどこにも見つからなかった。闇とともにかき消えてしまったかのように。


 わたしは泣きそうになって歩き回った。木の床のぎしぎしいう音はするものの、どこまで行っても壁に当たらない。

「そんなはずはっ!」もう、落ち着こうなどという気持ちすら思いつかなかった。あるのはただ、恐怖と不安だけである。

 物や柱にぶつかったっていい、そんな気持ちで駆け出す。半ば、ヤケだった。

 いくら走っても、果てしない空間ばかりが続く。


 すっかり息が上がり、膝を折ってぜいぜいと喘ぐ。

 すると、彼方からカナリアのさえずりがかすかに聞こえてきた。

「また、カナリア……」

 さえずりはだんだんと大きくなり、やがて羽音も混ざり始める。

「近づいてる。こっちに来てるっ」急に恐ろしくなった。あのカナリアはふつうの小鳥じゃない。闇から生まれた、まがまがしい生き物なのだ、そう直感が告げていた。


「逃げなきゃ」わたしはまた走る。束の間、さえずりが遠くなる。けれど、立ち止まれば、たちまち追いつかれてしまうことがわかっていた。

「逃げなきゃ……」

 わたしは走り続けた。必死の思いで。

 どこまでも、どこまでも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 山岸凉子の短編漫画のような、不安と美しさが入り混じった世界ですね。いつも助けてくれる志茂田さんや桑田さんがいないのが印象的でした。映画のようにはならない、と言いながら、いざその事態になると同…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ