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ある日の<俺> 9月19日。 伝さんと二重の虹

台風が近づいて、この辺りにも大雨警報が出た。

滝川さんちの土蔵の整理も、今日は休み。


しとしと、ざあざあ。

ふっと止んだかと思うと、また空が真っ暗に。


雨の日は犬の散歩が大変だが、さすがにこういう日は控えるか、用だけ済ませてすぐに家に連れて戻る飼い主さんがほとんど。雨好きの犬もいるが、台風じゃあなぁ。


しかし、グレートデンの伝さんくらいの大型犬になると、こんな天気でも外を歩きたいらしい(雷の鳴ってる時は別だ)。彼の飼い主の吉井さんちの庭は広いけど、伝さんにしてみたら、それはそれ、これはこれ。


舗装されてない道を選んで歩くいつもの散歩コース、まるでお揃いのようなレインコートを着て歩く一人と一匹。ちなみに、伝さんはその下に泥除けの腹掛けを着用してる。ちょっと可愛い。


公園を一回りして、帰り道。

小降りになっていた雨が、ふと止んだ。


「あ、虹・・・」


俺は思わず立ち止まった。西の空の雲間から、日没前の太陽の光が射して、東の空に七色のアーチを描いているのだった。外側が赤、内側がブルー、紫。


「伝さん、虹だ」


「おん」


律儀に応えてくれる伝さん。けど、犬は視覚がモノクロなんだっけ。


それでも。


「うわ、二重の虹だ。初めて見た!」


感動は分かち合えるに違いない。


年甲斐もなくはしゃぐ俺と一緒に、伝さんもずっとずっと空を見上げていたのだから。


しばらくして太陽は隠れ、虹も消えてしまったけれど、俺はとてもいい気分だった。再びで歩き出した一人と一匹、帰りの足取りはやたらに軽い。


「何かいいことありそうだな、伝さん!」


「おん!」


また雨が降り出したけど、今日の散歩がここしばらくで一番楽しかった。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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