ある日の<俺> 9月16日。 鐵道唱歌
鉄道唱歌って、全部で何番まであるんだ?
機嫌よく歌い続ける滝川のお爺さん。・・・何でも、東海道編だけで六十六番あるそうだ。
以下、山陽・九州編、奥州・盤城線編、北陸地方編、関西・参宮・南海各線編・・・さらには北海道編、満韓編もあるらしい。
滝川のお爺さんによると、有名だけど殆どの人は一番くらいしか知らないこの歌は、「地理教育鐵道唱歌」というもので、その地方地方の名所や景色を歌詞に盛り込むことにより、子供たちに日本の地理を分かりやすく説くために作られたらしい。
確かに、語呂良く、言葉の響きも美しく、改めて聞くと何だかちょっと感動する。
が。
長い。とにかく長い。よく覚えていられるなぁと思うけど、子供の頃に覚えたことは、歳を取っても忘れないというのは本当なんだな。
「た、滝川さん。ちょっと一息、お茶でもいかがです?」
「うん、そうだの。昔は何番まででも歌えたもんだが、さすがにこの歳になると無理だのぉ」
ほっほっほ、と上品に笑う滝川のお爺さん。客の俺がお茶をすすめるというのも変なもんだとは思うが、放っておくと止まらなくなりそうだからな。
「お孫さんにも聞かせてあげればいいのに」
何気ない俺の言葉に、滝川のお爺さんは項垂れた。
「孫たちは、外国じゃ・・・」
あー、それは寂しいだろうなぁ。
「まあまあ。俺、明日もお手伝いに来ますし。その時、また続き歌ってください」
「そうだな。あんた、息子みたいな年だしな。明日も聞いてもらうか」
皺だらけの目尻を下げて、滝川のお爺さんは微笑んだ。
昨日から、俺はここんちの土蔵の整理を手伝いに来ている。何でも、滝川家は昔、この辺り一帯の庄屋みたいなものだったらしい。
そんなわけで家屋敷は広いが、近年、手入れが行き届かず、当主たるご本人の年齢のこともあって、少しずつ色んなものを片付けていこうと一念発起。手始めに土蔵に手を入れたというわけだ。
こういうの、身仕舞というのかな。
子供たちに迷惑掛けたくないし、とお爺さんは言う。
仕事をもらえて、俺はありがたいけど・・・
他人ごとながら、何だか寂しいな。




