ある日の<俺> 9月13日。 前編 誰かが私を見つめてる
伝さんの飼い主・吉井さんの紹介で、若い女性の依頼を受けた。
小津絵美さん、十九歳。現役大学生。女子学生用アパートに独り暮らし。
夏期休暇は実家で過ごしたらしいが、こちらに戻ってみたら、部屋の中が何か変な感じがするという。
別に、無くなったものがあるとか、物の位置が変わっていたとか、そういうことはないらしい。ただ、帰省する前と今とは、何かが違うというのだ。
具体的には? と訊ねてみると、誰かにじっと見られているような、そんな嫌な気配がするという。
「ただの気のせいだと思うんだけど、でも、どうしても気持ち悪くて・・・ あたし、人の視線とかに敏感なところがあるのよね」
が、何らかの被害があったわけでもないし、「何か嫌な気配がする」だけでは、警察に訴える以前の問題である。
と、まあ。そういうわけで、「彼に相談してみたら?」ということで、吉井さんが彼女に俺を紹介してくれたというわけだ。なんとなれば、吉井さんが彼女の住むアパートの家主であるから。
彼女の部屋に入れてもらった俺は、秘密兵器を取り出した。
じゃじゃーん! 盗聴・盗撮発見器だ。正規で購入となるとかなりするシロモノだが、知り合いのチンピラ、シンジのツテでいくらか安く手に入れることが出来た。何でも屋たるもの、これくらいの装備は常識だぜ。はっはっは!
・・・しばらく、インスタントラーメンとうどんとモヤシの生活だったけどな。
そんなことはともかく。
女性の独り暮らしで、部屋に妙な異変を感じるとなると、セオリーとして、まずは盗聴器や盗撮器の存在を疑わなければならない。まったく、嫌な世の中になったもんだ。
彼女もやはりそういうことを考えていたのか、俺がこのコンパクトな装置の説明をしても驚かなかった。
で、まあ。部屋の隅々、トイレや風呂場まで調べてみたんだが、怪しい電波は検出されなかった。うーん、滅多に使わないからって壊れてるわけじゃないしなぁ。
そんなことを思いつつ、窓際を調べようとカーテンをめくった時。
そいつと、目が合った。