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ある日の<俺> 9月8日。 無理に押し込むと後が大変

最近のプラグというか、コンセント。


何でこんなに固いんだ。こんなもんが、指先の力の弱くなった年寄りに抜けるわけがない。


「抜けそうかい、何でも屋さん」


心配そうに小峰のお婆ちゃんが訊ねてくる。何でも、夏休みに遊びに来た孫がゲーム機のコンセントを差したまま帰ってしまったそうで、お婆ちゃんの力だと、どうやっても抜くことが出来なかったらしく、俺が呼ばれた次第。


必要のないコンセントは抜いておくに限る。小峰のお婆ちゃんが恐れているのは、電化製品が原因の火事だ。


自分の使ったものは、ちゃんと片付けていけよ、孫よ・・・


俺は懸命にコンセントを引っ張った。固い。とにかく固い。よく分からないが、もしかして、差し込む角度に無理があったんじゃないだろうか。


「くっ・・・」


奥歯を噛み締めて、そら、一気に!


「いでっ!」


すっぽん。

コンセントは抜けたけど、勢い余って思い切り指を柱にぶつけた俺って・・・


ちょうど親指の付け根だ。痛い。マジ痛い。俺は言葉を発する余裕もなく、指を押さえて悶絶した。急速に熱をもってくるのが分かる。腫れてきたのも分かる。じんじんする・・・俺、涙目。


「だ、大丈夫かい? あ、これは痛いはずだ。ちょっと待ってて」


そう言って慌てて庭先に出て行ったお婆ちゃんは、アロエの葉を持ってすぐに戻ってきた。折ったばかりのようで、切り口から露のように汁があふれている。


「これを塗ると、すぐによくなるからね」


硬めの皮を剥き、中のゲル状のものを、やさしく患部に塗りつけてくれる。それがひんやりしているせいか、痛みがかなり楽になった。


俺が礼を言うと、お婆ちゃんはにっこり笑った。


「アロエは、<医者いらず>っていうくらいだからねぇ。うちの子たちのちょっとした怪我は、みんなこれで治ったもんだよ。孫もね、気持ち悪いって嫌がるけど、よく効くのが分かったみたいで、最近は大人しく塗られてくれるよ」


「いいお孫さんですね」


ゲームは片付けていかなかったけど。

俺の内心の声が聞こえたのか、お婆ちゃんは困ったように笑った。


「でも、お陰で助かったよ。ありがとうね。あ、良かったら、肉じゃが持っていっておくれよ。ついうっかり作りすぎちゃって。孫はもう帰っちゃったのにねぇ・・・」


「あはは。そんなもんですよ。ありがたくいただいて帰ります」


帰り道。

空腹に耐えかねて、途中の公園に寄ってつまみ食い。


「美味い・・・」


ちょっとだけ、昔母さんの作ってくれた肉じゃがと似ている。


いいな、おふくろの味。俺もこれくらいの料理をこなせるようになりたいなぁ・・・


そんなことを考えていて、ふと気づいた。

柱に打ち付けた親指からは、すっかり痛みが消えていたのだった。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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