ある日の<俺> 父の日の回想。3
それからは。
「なにわづに~・・・」
「はい! 今を春べと咲くや此花!」
「みせばやな~・・・」
「はい! 濡れにぞぬれし色はかはらず!」
「ながからむ~・・・」
「はい! みだれて今朝はものをこそ思へ!」
・・・智晴。そんなに「似たもの親子」発言が気に入らなかったのか?
「何です、義兄さん?」
ののかが次を詠むまでの、ちょっとした合間にこっちを流し見るその目が、笑ってない。うう。やっぱ怖い。
「な、何もない!」
俺はブンブン首を振った。
「そうですか? なら、いいんですが。そうそう、カルタ取りは、別名<畳の上の格闘技>っていうんですよ。知ってます?」
俺はまた首を振った。今度は縦に。
ふふん。
鼻で笑う智晴。お前、性格悪い・・・
「パパ、がんばって!」
ののか、ありがとう。パパ、うれしいよ。
っていっても、最後の一枚。はぁ。
「あいみての~ のちのこころにくらぶれば~」
あれ? 智晴が動かない。
「は、はい・・・! む、昔は物を思はざりけり・・・!」
どうしたんだ、智晴。
何だか不気味で、ちらちら元義弟の顔を盗み見る。
「ねえ、義兄さん」
笑わない目で、にこにこ笑う智晴。
びびりながら返事する俺。
「な、何だ?」
「次の面会日、ひと月先ですね?」
・・・
・・・
逢見ての 後の心にくらぶれば
昔は物を 思はざりけり
権中納言敦忠の歌。・・・智晴、お前ってやつは・・・
ずーん。
心が暗くなった。
「パパ?」
「ののか・・・」
「あのね、パパ。ののか、でんしゃにのれるようになったのよ。ひとりでも、パパに会いにこれるよ?」
「ののか~!」
俺はがばっと娘を抱きしめた。
ののか、お前はやっぱりパパの天使だ!
おわり。




