ある日の<俺> 父の日の回想。2
あしびきの やまどりのをの しだりをの
ながながしよを ひとりかもねむ
「はい・・・」
「パパ、すごーい!」
目をきらきらさせて、尊敬の眼差しで見上げてくるののか。
そうだよ、俺が取ったんだよ。百人一首なら、一応、全部覚えてるし。高校の古文の授業で、毎回五首ずつ覚えさせられたんだよなぁ。で、テストされて、全部間違いなく書けるまで帰してもらえなかったんだ。
ってゆーか。
おい、智晴よ。お前、手加減してるだろ。視線がちゃんと正解のカルタを捉えるのを見たぞ。
じとっと見つめていると、智晴はそ知らぬ顔で、「あ、ハトが飛んでる」とか言いながら、窓の向こうに気をとられたふりをしている。
「もー、トモちゃんしゅうちゅうしてよ」
ののかがばら色のほっぺをふくらませる。うーん、可愛い。
「ねえ、パパ」
父の日に パパと呼ばれる 至福かな
ああ、一句詠んでしまった。俳句だけど。
「ん? なんだい、ののか」
「トモちゃんとおじいちゃん、すごいのよ。かるた取りなのに、けんかしてるみたいなの」
「ケンカ・・・?」
俺は思わず智晴を振り返った。
「父さんも、負けず嫌いだから」
元義弟は呟きつつ、ニヒルな笑みを見せる。
「似たもの親子・・・」
思わず口から出た言葉に、ギ、ギ、ギ、という擬音が聞こえてきそうな動きで、智晴がこちらを向く。
「え? 何か言いましたか、義兄さん?」
い、いや、何も。そう応えながら、俺は智晴から目を逸らした。・・・何か、迫力があって怖かった。