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ある日の<俺> 6月2日つづき。 猫が拾ったドーベルマン 6
「やつら、どうやって盗んだ仔犬たちを運んでいたか知ってます?」
温厚な犬上さんの表情が、夜叉になった。
「ボストンバッグに詰め込んだんですよ。ぎゅうぎゅうに! 麻酔まで用意して! マリーゴールドも眠らされてました。もし麻酔の量が多すぎたら、死んでましたよ!」
押し殺した声で吐き捨てるように言うと同時に、犬上さんの全身から怒りのオーラがぶわっと噴き出した。って、本当に見えるじゃないけど。どっかから「ゴゴゴ・・・」とかいう効果音が聞こえてきそうだ。だけど、彼の怒りは分かる。とても分かる。いたいけな仔犬やその母犬にまで、何てことするんだ!
死ねばいいのに!
「そう、そうですよ本当に!」
同意の言葉が返ってきた。俺、声に出してたのか。
「うちの他にも仔犬を盗まれたところがあるんですが、乱暴に扱われたせいでしょう、鞄の中で死んだ子もいるらしいです。全く、赦しがたい。・・・やつら、人間じゃない!」