ある日の<俺> 6月2日。 猫が拾ったドーベルマン 5
今日は一日雨。
三毛猫は・・・どこへ行ったやら。多分、このボロビルのどこかにいると思うんだけど。
昨日午後、犬上さんが来た。大きなドーベルマンを連れて。
けど、俺は仕事柄大型犬も見慣れているので(グレートデンの伝さんとか・・・)、彼女が可愛らしく見えた。実際、同じ犬種だと、雄よりは雌の方が少し小さい。彼女──マリーゴールド号というらしい──も例外ではなく、(ドーベルマンとしては)小柄だということだった。
犬上さんとマリーゴールド号(長いのでマリーちゃんと呼ぶことにする)を事務所兼自宅に迎え入れたその瞬間、三毛猫が毛を逆立てて威嚇するようなそぶりを見せたが、その前から落ち着かなくなっていたマリーちゃんがそわそわと仔犬を呼ぶ声を出したら、三毛猫の腹に頭を埋もれさせて眠っていた仔犬が置きだして、きゅんきゅん鳴いた。人間にたとえたら、「ままー! ままー!」という感じだ。
それを聞いた三毛猫は、仔犬を置いてソファから降りた。自分の何倍も身体の大きい相手を、真ん丸い目でじっと見詰めていたかと思うと、ふっとどこかへ──というか、玄関ドアは閉めてしまってあるので、俺が寝室にしてる部屋に勝手に潜り込み、その後は姿を見せなかった。
それを見送ったマリーちゃんは、ソファで鳴いてる仔犬の全身をぺろぺろ舐めて、静かに授乳し始めた。
「母子で間違いないですね」
俺の呟きに、犬上さんも頷いた。
「ええ、私にもこの子がうちで生まれた仔犬だと、すぐに分かりました。小さくても、それぞれ個性があるので、分かるんです。あなたと、それからあの恩人というか恩猫に、それを信じてもらえたようで、良かったです」
「あの・・・」
俺は獣医さんに聞いてから、ずっと心に引っかかっていることを訊ねてみることにした。
「何でしょう?」
犬上さんは、小首を傾げてみせる。ムクツケキ男のはずの彼に、どうしてかその仕草は妙に似合うっていた。
「全部で五匹の仔犬を盗まれたと聞いてるんですが、他の四匹の行方は・・・」
「ご心配ありがとうございます。こちらでも色々調べて、窃盗団はもう警察に引き渡してあるんです。他の四匹はそいつらの隠れ家で見つかりました。ただ、この仔犬──マーガレットの行方だけが分からなくて・・・ どうやら、輸送中に落っことしたらしんですよ」
犬上さんは憤慨していた。