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ある日の<俺> 2024年7月7日 七夕の水辺

眩しい太陽、輝く青空。

今年の七夕は、とても暑い。


今朝も早くからグレートデンの伝さんの散歩行って、ジャーマンシェパードのディド嬢の散歩行って。それから中林さんちの草むしり。持ってた塩麦茶が足りなくなって、自動販売機で水とスポーツドリンク買った。


暑くて暑くて……ああ、歩行者赤信号だ。止まらなきゃ。


灼けつくアスファルトの暴力的な熱が、靴を通してこの身を茹でる。照りつける太陽が、服の上から肌を灼く。まるで空気が静かに沸騰しているようで、吸う息吐く息全てが熱い。


通勤の車もすっかり落ち着いた時間帯、交差点は空っぽだ。俺も空っぽ、ただ熱だけが溜まっていく。


あ、逃げ水。


ゆらゆら、ゆらゆら、銀色。こうしていると本当に水があるように見える。きらきら、きらきら、涼し気に輝いて、ああ、あそこにはせせらぎがあるのかな。足をつけたら少しは暑いのが楽になるかな……。


  ぴちゃん


ん? 水音が聞こえた気がする。そんなはずはないのに。


  ぴちゃん、ぴしゃん


何かが跳ねた?


  ぴしゃっ


「……!」


ゆらめく逃げ水の中から銀の魚が現れて、空に向かって跳躍する。涼し気な水音を立てながら、いくつもいくつも飛び跳ねて、光の中に溶けていく。


ハッと気づくと、歩行者青信号。俺以外誰もいない交差点に、聞きなれた『通りゃんせ』が響く。機械的に足を踏み出しながら、さっきの魚たちが気になって、交差点の真ん中を見る。


逃げ水はその名の通り逃げてしまったのか、何もない。──魚なんているはずもない。


「……」


今のは何だったんだろう。暑さのあまりの白昼夢? 光と熱と空気の歪みから生まれた逃げ水が、銀の魚になって空に上ったなんて──。


あれは、天の川を泳ぐ天の魚?


……

……


暑い。とても暑い。頭がぼーっとしてきて……。


ダメだ! 俺、熱中症になりかけてるんじゃないか? こんな昼中、誰も歩いてないとこで倒れたら、俺そのまま死んじゃうかも。


恐ろしい。この先のコンビニに避難させてもらおう。そんで、ガリ○リくんと白○まアイス買って、イートインで食べさせてもらおう。


さあ、急げ俺! 七夕の水辺に引き込まれる前に!





 



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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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