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ある日の<俺> 2022年3月14日。 春は鶯

カーテンの向こうが、仄明るい。


朝、目覚めるたびに明るくなるのが早くなるから、ちょっとびっくりする。ついこの間まで真っ暗だったのに、このごろは五時前でもうっすら明るい。脳がバグってしまう。


「……」


眠いけど、起きる。起きれば、目が覚める。目が覚めたら、トイレ、居候猫の餌やり、洗顔、メシ、歯磨き、そして仕事! ──家主より居候のメシが早いのは、腹が減ったとにゃあにゃあ五月蠅いからだ。普段はクールなくせに、三毛猫め。


さて、今朝の一番仕事は、いつも通りグレートデンの伝さんの散歩。次がアフガンハウンドのランボーくん。その次は不動産会社の人に頼まれてちょっと遠出する。空き地のススキが枯れて、チビた箒みたいになってるんだけど、最近そのあたりで煙草を捨てる奴がいるから、小火が怖いんだって。


火は怖いよな、火は。

犬散歩の後はいったん戻って、道具を積んだ自転車でいざ出発だ。


春先のススキは枯れてるけど、枯れてるからこそ、硬い。バッテリー式の草刈り機じゃちょっと役不足かも、とは思うも、刃はチップソーだからまあまあイケる。これくらいの範囲なら鎌との合わせ技で何とかなるかな?


うーん、もっとパワーのあるエンジン式に憧れる……、だけどあれは燃料がややこしいんだよなぁ。ガソリンとオイルを混合しなきゃいけないらしくて、一応住宅街に住んでいる身、ガソリンを保管するのは憚られる。


ま、しょうがないよね、と草刈り機を止め、ゴーグルを取って手拭いで汗を拭いたとき。


 

 ホー……ケキョ

 ホーホケキョ ケキョ ケキョ

             ホケキョ



空き地に接する竹藪から、鶯の声。


「春だなぁ……」


空は水色。風もなく、穏やかな春の日。

鶯も、そろそろ鳴いてみたくなったのかもしれない。


「……」


ああ、移り行く季節の中で、己の鳴く時を知る鶯よ、教えておくれ。春になり、これからさらに勢いを増す草を刈る仕事のために、俺も新しい替刃を買うべきだろうか──?


草刈り機のチップソー、さっき当たった石でちょっと欠けたみたいなんだ……。







今日はホワイトデー。

バレンタインデーにチョコくれた人たちに、俺もお返し。


グレートデンの伝さんの飼い主、吉井さんを始め、大人組にはうぐいすボール。

フレンチブルの文さんの飼い主、菅原さんちの娘さんたちと、塾送り迎えお得意さんの及川さんちの唯ちゃんには、星屑屋の色とりどりの金平糖。


うん。喜んでもらえたよ。


赤いニンジンのせい、じゃなくてお蔭で、翌日カレーをご馳走になってしまった古美術雑貨取扱店慈恩堂の真久部さんには、うぐいすボールの変わり味セットを持って行った。そしたら、何故かお茶を頂くことになって……一緒に味比べしたけど、どれも美味かったよ!

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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