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ある日の<俺> 2022年2月26日。  茶葉は英国王室御用達

空は晴れて、とても穏やかな良い天気なのに。


「まったく。こんな茶葉で、ダージリンを名乗らないで欲しいですねえ」


紅茶がなければ一日が始まらない、という左文字さん、お怒りである。


「ま、まあ、通販だと味がわからないですし……」


そう、初めての通販で買った紅茶のティーバッグが、ことのほか不味かったのだそうだ。紅茶通なのにティーバッグ派になったのは、トシのせいだとか。


「まるでアッサムのような濃さです。ダージリンっぽい味はしますが……」


だがこれは、茶葉より茎のほうが多そうです、と言ったきり、ぐっと唇を結ぶ。まだまだ出そうな酷評を、我慢しているご様子だ。


「──それなりのお値段のものには、それなりのものを期待しますよね。安ければ、そんなもんだと思いますけど……元々期待なんかしないというか」


無言でうなずく左文字さん、こめかみに青筋立ってそう。


「えっと、スーパーで買ってくるのはここのブランドでいいんですね?」


書いてもらったメモを、俺は確認する。


「ええ」


「有名ですよね。よく知られている」


英国王室御用達なブランド。黄色いラベルが有名なあのブランドとともに、わりとどこででも見掛ける。だからこそのご指定なんだろう、これなら間違いようもない。


「紅茶は、せめてこの辺りからですねえ、許せるのは」


「は、はぁ……」


「ウイスキーでいえば、ジ〇ニ黒です。そこからですよ、ウイスキーも」


俺、酒の味はあんまりわからないけど、ジョ〇ーウォーカー赤ラベルより黒ラベルのほうが高いのは知ってる。


「ああ! 通販の紹介文など、信用するんじゃありませんでした。遠くのネットショップより、近所のスーパー。口直ししたいので、お願いしますよ、何でも屋さん」


神経痛が痛むから、出掛けるのが億劫で通販してみたのに、と深い溜息を吐く。


「ダージリンを三パックですね……そういえばここ、五つの味のバラエティーパックなんかも出してますが」


「ああ、そういうものもありましたねえ。じゃあ、それも一つお願いし……つッ……」


顔を顰めて、痛みを堪えているようだ──。だから、こんなに怒りっぽくなってるんだろうなぁ。


「できるだけ早くお願いします。こういうときにかぎって、普段の買い置きまで切らせてしまって」


もっと暖かくなって神経痛が良くなったら、百貨店の紅茶売り場に行くんです……、と遠い目で何かのフラグのようなことを呟く高齢の左文字さん──。


待って! 銘柄のご指定があれば、ちょい遠出の買い物依頼も承っておりますよ! 


今は取り敢えず、近所のスーパーまで急いでこよう。

一時間も掛からないから、左文字さん、あと少しの辛抱です!

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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