ある日の<俺> 2022年2月22日。 にゃんにゃんにゃん
今、鳩村さん宅で猫タワーを組み立ててるんだけど。
蹴り蹴り蹴り!
パンチパンチパンチ!
「こら、ろうそく! 何でも屋さんの邪魔はダメ!」
鳩村さんが仔猫のろうそくちゃんを叱る。ろうそくちゃんは鳩村さんが会社近くで拾ってきたという元野良で、白地に濃いグレーの縞が地図みたい。尻尾も全体にそのシマなんだけど、先っちょだけが白い。うん、蝋燭の先みたいだね。
ろうそくちゃん、ダーっとあっち走ってこっち走って、カーテンに登ってまた叱られて。
パンチ、パンチパンチ!
蹴り!
俺にちょっかいかけて、大興奮で走り回る。
「すみません、何でも屋さん……」
「あはは。仔猫ってこんなもんですよ。元気でいいと思います」
そう、若い猫ってこんなんだよ。うんちんぐハイも激しいし……猫って、何でウンチの後で走り回るんだろうなぁ。謎だ。
てなこと思いながら、部品をはめ込もうと立ち上がろうとしたら。
ダダダダダダー!
俺の足から背中を駆けあがって、頭を踏んでカーテンに飛び移る。
悲鳴を上げる鳩村さん、苦笑いするしかない俺。
こら、ろうそくちゃん。俺は猫タワー組み立ててる人で、タワー本体じゃないの!
キジトラのお花ちゃんは、上から見るとツチノコに似ている。
「……何だい、お花ちゃん」
すりすり、すすり。
すりすり、すすり。
灯油のポリタンクを運んできた俺の足に、全身をなすりつけてくる。でっぷりと太ってるから、なかなかの重さ。
「何でも屋さんにまで、餌をねだってるのかなぁ」
飼い主の飯倉さんが苦笑いする。
「もう! お花ったらゴハンもらってない子みたいに。ダメ! さっきあげたばっかりでしょ!」
なー!
なーあ……!
憐れを誘う声だけど……、飯倉さんは首を振る。
「お花っ子は、“餌もらってない詐欺“を働くの。母からもらったのに、私にお腹減ったって鳴いて、私にもらったばかりなのに、また父に餌くれって鳴いて」
そうやって餌ばっかりもらって、こんなに太ってしまった、と飯倉さんが嘆く。
「詐欺ですか」
思わず笑ってしまう。
「そうなんです。──ダメ! そんな土管のようなプロポーションしてるくせに。病気になるから、食べ過ぎはダメ!」
土管って、飯倉さん……! 俺はツチノコって思ったけど。
なんにしろ、詐欺はダメだよ、お花ちゃん。
コンクリート打ちっぱなしのボロビルの一室、何でも屋事務所兼住居。
隅に設えたなんちゃって畳エリアに設置したコタツで、俺は本日の事務仕事をしている。件数と各種内訳と売り上げと……えーと、所要時間は……。
発泡酒を舐めながらぽちぽちキーボード打ってると、欠伸が出てくる。晩飯も風呂も済ませて、お腹も身体もホコホコで……でも、その日のぶんはその日のうちにやっておかないと、後から地獄を見るって知ってるから、頑張る。
コタツの中の足を組み替えると、ずっと中に入っていた居候の三毛猫が太股のあたりの隙間から出てきた。そのまま、何を思ったか膝の上に乗ってくる。重いよ、こら。
ごろごろごろ……
ぐるるるーぐるるるー……
よくわからないけど、ご機嫌だ。
「いいなぁ、お前。いつも気ままで」
ぐるるるーぐるるるー……
猫の幸せそうな顔を見ていると、しょうがないなぁ、と苦笑がもれる。普段のヤンチャも許してやろうという気になる。──まあ、猫なんて、何の役にも立たなくていいっていうか、それが許される存在だ。
ごろごろごろ……
ぐるるるーぐるるるー……
喉を鳴らしながら、今度は腹を揉んでくる。クリームパンみたいな手をグーパーして、おおう、けっこうな力だ。
あんまりご機嫌だから、なんかこう、こっちも幸せな気分になってくるんだけど。
「おい、そろそろどいてくれよ」
仕事も終わったし、メールチェックしたりとか、軽くネットサーフィンしたりしてたんだけど、三毛猫めが膝から動く気配を見せない。
「こら」
どいてくれない。時折思い出したように喉を鳴らしながら、熟睡している。
「……」
俺も寝たいんだけど。コタツで寝ると風邪引きそうだし、新型コロナだのオミクロンだの怖いから、ちゃんと布団で寝たいんだけど。
「おい……」
膝で寝ている猫を退かせるのって、なんでこんなに罪悪感を感じないといけないんだろう?
今日は猫の日。
二日遅れですが……。