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ある日の<俺> 2022年2月14日。ちょっぴりビターなバレンタイン?

今日はバレンタインデー。

モテるモテない関係なしに、たくさんのチョコレートが飛び交う日。


義理チョコ、友チョコ、気持ちチョコ。

本命チョコは誰のため? 贈らず食べちゃあダメでしょう。


「だって、あの人に恋人がいるって知らなかったんだもん」


お高いお店の生チョコを食べ過ぎて、キモチ悪くなってしまったという彼女。


「あー。その場合は義理チョコってことにして、もうあげてしまえば……」


「アッツアツの恋人たちに、一万越えの高級おやつを提供しろっていうの? バッカじゃない?」


「だからって、公園で独りヤケ食いなんて……」


するから、こんなところで酔っ払いみたいにリバースすることになってしまったんじゃないかなぁ。──生チョコは、食べ過ぎると胃にクるよ。


「そうでもしなきゃ、やってらんないんだからしょうがないじゃない! ……う、うぐ──」


あー……。


「……まあ、そういうのは吐ききったら楽になると思いますよ」


背中をさすってあげたいけれど、相手は若い女性。オジさんはそこの自動販売機で冷たい水でも買ってきてあげよう。


「胃の具合、どうです? 落ち着きましたか?」


街灯の下、青白い顔の彼女がうなずく。


「この水あげるから。良かったら手、洗う? うがいもすればいいですよ」


手を流してあげてから、残りの水も渡す。


「まだ若いし、綺麗なんだし。もっといい人がいるよ、きっと」


まだ俯いてる彼女。でもなぁ。


「もう暗いし、若い女の子が一人でこんなとこにいると危ないよ。さ、落ち着いたんなら立って。帰りましょう。身体冷えてコロナにでもなったら困るでしょ?」


家まで送るよと、俺はずっとお座りして待ってくれていたグレートデンの伝さんを示す。


「犬の散歩の途中だし、オジさん、おかしなことしないよ。心配なら近所のコンビニとかまででもいいんだし。な、伝さん?」


「おん!」


「──でんさんっていうの? おっきな犬……」


「おふん、ふん」


しげしげと見つめられて、伝さん何だか誇らしそう。


「グレートデンっていう犬種なんだよ。伝さんたら、こう見えて(オトコ)でね、前に、あの公園で危ない目に遭ってる女の子を助けたこともあるんだ」


驚いたように顔を上げる彼女に、俺はうなずいてみせる。


「だから、きみを放って置くことができなかったんだよ」


近頃物騒だし、心配でね、と続けると、彼女は小さな声で「ありがとうございます」と言い、しおらしく頭を下げた。──冷静になったら、なんだ、礼儀正しくて良い子じゃないか。


「……生きてると、色んなことあるよね。な、伝さん」


「おん」


実は犬好きだったらしい彼女、伝さんの頭を撫でながら「でも、生きてても辛いことばっかり……」と呟く。立ち直りには、まだ時間がかかるようだ。


「あはは、失恋は辛いよね。わかる、俺も経験あるし……。でもさ、昔、女友達が言ってるのを聞いてね、けだし名言だと思ったんだけど──」


その言葉を、俺はちょっと女性っぽくして言ってみた。そしたらウケた。その場にしゃがみ込んで大笑いするほど、大ウケした。



『どんな男との別れより、諭吉との別れが一番辛い……!』



笑えるなら、もう大丈夫だ、お嬢さん。

な、伝さん?


「おん!」






俺もつられて笑いながら、学生時代のあの日、空き教室で友チョコパーティを開いて、モテない男どもを(いた)わってくれた女の子たちの、あの賑やかな笑い声を思い出す。


ありがとう、きみたちの明け透けな会話にはドン引きだったけど、そのとき聞いた言葉が、きみたちの人生の後輩さんにも役に立ったよ!

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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