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ある日の<俺> 2021年黄金週間 1

・四月二十九日



昭和の日、雨。


週間天気予報によると、どうやら黄金週間中は雨が多いみたいだ。せっかくの長期休みではあるけれど、あまり出歩くなよ、という日本の神様のご意思か──。


てなこと思いつつ、俺は犬の散歩中。在宅の飼い主さんも多いけど、雨の日はやっぱり歩き回るのは億劫らしくて、ご新規さんもちらほら。


「コンちゃん、こら、そっち行くな、って──」


雨もものともせず、飛び跳ねるように歩いていた斎田さんちのゴールデンレトリーバー、まだまだ仔犬のコンちゃんが、ブランコの下の水たまりに突進しようとする。


「わん! わふ!」


「こらこら、ダメ。もう濡れちゃって同じだからって、わざわざ水たまりに飛び込む小学生みたいなことしちゃダメ!」


「わんわん!」


遊びたいよ~! というように、俺を見上げて激しく尻尾を振るコンちゃん。仔犬といっても図体はデカい。引っ張られると持ち堪えるのが大変。


「ダメだってば。せっかくレインコート着せてもらってるのに」


濡れちゃうって、と言いながら、リードをしっかり握り直す。


「ほら、もうすぐお家だから。斎田さんが待ってるから」


この公園突っ切ったら、すぐに斎田さんちが見えてくる。俺はポケットからジャーキー入りの小袋を出し、コンちゃんの目の前で振ってみた。


「わんわんわん!」


「よーしよーし、ちょっと走ろうな。おやつはお家についてからな~」


斎田さんがいいって言ってくれたらな~。心の中でそうつけ加えつつ、新顔わんことともに雨の公園を駆け抜ける。


あ! 俺が水たまり踏んじゃった! 靴に水が入って気持ち悪い……くっ!







・五月二日



今日は荒天。

荒れてる天気。


昨日も一日雨か曇りか油断のできない空模様だったけど、今日はもう、酷い。雨がザーッ、風がバビューン。危なくて、自転車なんか乗ってられない──と、思ってたら、目の前でピザ配達バイクが横転。


「おい、大丈夫か!」


慌てて駆けつけると、からくも下敷きを免れた配達員が道にへたりこんでいた。


「だ、大丈夫? 怪我はないですか?」


頭打ってないか、心配しながら声を掛けると。


「大丈夫、です……風に煽られてコケたけど、風に煽られて巻き込まれずに済んだみたいで」


転倒の瞬間、着ている雨合羽ごと持ち上げられるような突風が吹いたらしい。


「あー、壊れてないかな……」


自分よりバイクを心配する配達員とともに重い車体を起こしてみると、とりあえず故障はしてないようだった。


「良かった~! できるだけ早く行って帰って来い、ただし安全運転で、っていつも店長に言われてるから……」


「こんな天気の日に、難しい注文だね。怪我なくてよかった」


この手の配達バイクって、いかにも強風に弱そうな構造になってるよな。


「ま、配達後でよかったです。途中だったら品物が台無しになってたりして、配達遅れて客からクレームが」


運が良かった、と笑う配達員は逞しい。礼の言葉を残し、じゃ! と元気に配達バイクに跨って去って行った。気をつけて! という俺の声に、ウィンカーをチカチカさせて応じてくれる。


ふう。俺も気を付けなくちゃ。なんたって、これからバッテリー切れの電動自転車を拾いにいかなきゃならないんだもの。何でこんな日に乗ろうと思ったかな、大居さん。四月末の誕生日、お孫さんからプレゼントされた電動自転車がうれしいのはわかるけど、充電忘れちゃダメ!


充電切れの電動自転車って、重いんだよなぁ。はぁ……。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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