ある日の<俺> 2016年12月14日。 まんまるお月さま
短いです。
そは真なる円である。
漆黒の深き淵より忽然と現れ出でて、孤高の輝きを放ち、遍く地上を照らす。
大慈大悲と厳酷苛烈の心をもって、光と闇を峻別する……。
「なあ、伝さん……」
「おうん?」
「月を見ると、やっぱり吠えたくなるかい?」
「おぅん……」
「そっか、我慢してるのか……えらいぞ、伝さん」
「おん!」
空にぽっかりお盆のような月。俺はグレートデンの伝さんと夕方の散歩をしている。夕方といっても十二月。もう真っ暗だ。
「今日は本当にびっくりするほど明るいなぁ……」
「おん」
散歩コースで出会う犬友だちの皆さんも、口々に今宵の月を讃えてる。
「やあ、こんばんは、何でも屋さん」
「こんばんは、久保原さん。シロちゃんも」
シロちゃんは真っ白い秋田犬。大型犬同士、伝さんと鷹揚な挨拶を交わしてる。
「いい月ですねぇ。寒いけど」
「本当に。シロちゃん、今夜のお月さまを映したみたいですねぇ」
白い被毛が、街灯の間の闇の中に浮き上がるようだ。
「あはは、シロ、褒められたぞ」
からかうように久保原さんが言うと、シロちゃんは俺のほっぺを舐めてくれた。笑いながら挨拶をして別れると、また次の犬友だちに出会う。
皆が皆、月を賞賛してから寒さを嘆く。いいことだけでもないし、悪いことだけでもない。犬との散歩は、それだから楽しい。犬友だちの皆さんはそれを良く知っている。
「なあ、伝さん」
「おうん?」
「寒いけど、冬の散歩は身体が温まるな」
「おん!」
「ちょいと逸れて、公園コースを軽く走るか?」
「おんおん!」
伝さん、うれしそう。今日の仕事はこれで終わりだから、たまにはこんなふうにサービスしておこう。伝さんには、思いがけないことで世話になることがあるからなぁ……。
一人と一匹で歩きながら、また東の空を見上げる。今夜の月は本当に丸くて……。
あ! 芋満月食べたい。