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ある日の<俺> 2016年9月1日。   夏休みは終わった

今日から九月か……空模様は曇り気味の晴れ。なんだかパッとしない。


八月は、娘のののかと一回しか会えなかった。俺の仕事の都合とののかの夏休みスケジュールが合わなかったんだ。その日だって丸一日空けるのが難しくて、草刈りと模様替えの手伝いの合間に慌しく顔を合わせただけ。


早朝は犬の散歩、次、庭の水撒き。それからぼろビル事務所兼自宅に来てくれたののかを出迎えて、前の日に買っておいたお菓子と塩を入れてない麦茶を出し、ちょっとしゃべってから草刈りへ。


必死に刈りまくっていつもの平均所要時間の三分の二くらいで終えて、昼飯を一緒に。しばらくは一緒にいられたけど、以前から予約のあった時間には依頼者の家に行って、家具などを動かす模様替えのお手伝い。


はぁ……。その前日だったら一日空けられたんだけど、その日は残念ながら登校日だったから仕方ない。


俺のいない間は、いつもののかを送ってきてくれる元義弟の智晴も一緒にいてくれたから、一人にさせる心配はなかったけど、せっかく来てくれたのに、もてなしも何も出来ず。自己嫌悪。


そのののかに、「パパ、洗濯物を放りっぱなしにしてたらダメじゃない」と窘められたのも自己嫌悪。


いや、だってさ。夏場はとにかく汗を掻くから次から次に洗濯物が増えてしまって、洗って干すだけで精一杯なんだよ……。畳む暇と気力が無いんだよ……。ののかが来る前に隠そうとしたけど、間に合わなかったんだよ……。


俺が仕事に出てる間、ののかと智晴で洗濯物をきれいに畳んで収納代わりのカラーボックスにきちんと詰めてくれたのはありがたかった。とても機能的に整理してくれていて、それを見た俺は感動しきりだった。風呂場に隠してあった洗濯前の汗まみれの服も洗って干してくれたけど、正直、助かった。


ついでに、布団までも屋上に持って上がって干してくれたらしい。寝る時まで気づかなかった。やってくれたのは智晴だろうけど、さらにシーツとタオルケットまで洗ってくれてて、本当に申しわけない。


そんな大物が、ほんの数時間で乾いてしまうくらい暑い日だったから、すぐにまた洗濯物を量産したんだけども。家事ってやつは、終りが無いよな、しみじみと。


──居候の三毛猫は、部屋の隅で大人しくしてた。人見知りか。


せっかくの面会日だったのになぁ……。もう少し小さい頃は、俺の予定に合わせてもらえたけど、今はお互いのスケジュールをすり合わせなくちゃいけない。あの子も忙しくなってきたんだ。


父と母と叔父、それに祖父母だけが小さい頃のあの子の世界だった。幼稚園に行くようになっても、それはあまり変わらなかった。だけど、小学校に上がったとたん、知り合う人も友達も、加速度的に増えていく。そうしてあの子の世界は大きく広がり、相対的に元の小さい世界は縮んでいく。


いつまで、ののかは俺の子供でいてくれるかな。俺の娘でいてくれるかな。


流れのままに太陽を横切って行く雲を見ながら、そんなことを考えて溜息をついていた。






後日、元妻と電話で話した時についそんな不安を口にしたら、「あなたにとって、ののかはいつか娘で無くなるような存在なのかしら? いつかはあなたの子じゃなくなっちゃうの?」って言われた。思わず「とんでもない! ののかは一生ずっと俺の娘だ俺の子だ!」と叫んだら、「ののかだって同じよ。ホント、そういうところ相変わらず馬鹿ね」と鼻で笑われ、大声出されたら耳が痛いわよ、と怒られた。


……彼女には、やっぱり勝てないな、うん。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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