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ある日の<俺> 2016年8月30日。  台風10号がとどめ刺す

昨日の大雨は凄かった。


台風絡みの雨は降ると何時だって凄いけど、何で昨日のが凄いのかというと、早朝、公園の落ち葉ならぬ落ち枝が酷いから。落ち枝どころかたまに折れ幹まであるよ。細い木だけど。


苔だのの地衣類に弱らせられてたのもあるんだろうけど、こんなにボトボト落ちたり折れたりされると、心配になってくる。


あ。


この頃、夜になるとよく公園脇に違法駐車してる車の上に、俺の腕くらいの太さの枝が落ちてる。そんなところに停めてるから……。


「なあ、伝さん」

「おん?」

「違法駐車はいけないよなぁ」


ボンネットに傷がついちゃってる。


「おん」


しかもちょっとへこんでる。


「駐車場代ケチって、一体いくらの出費になるやら」

「おふん」


誰かは知らんがしょうがないヤツだ、とでもいうように、伝さんが鼻を鳴らす。と、そこに現れたのは、これから出勤かそれとも退勤で帰りなのか分からないけど、近所の交番の若いお巡りさん。


「おはようございます」

「あ、何でも屋さん? おはようございます」


私服だけど、顔は覚えてる。家出ペット探しで建物と建物の間の狭い路地に潜り込んでたり、塾の送り迎えで毎回違う小さい子を連れていたりするので、不審者と間違われないよう、交番にはマメに顔を出して挨拶してるんだ。だから、向こうも俺の顔は知っている。


「これから出勤ですか?」


「ええ。昨夜は台風のあおりであんまり雨がきつかったんで、この近くの友人宅に泊めてもらったんですよ。その友人が公園前に違法駐車する車があるというので、寄ってみたんです」


本当に停まってましたね、と言いながら、彼は車のナンバーをメモしてる。


「あー、ついにこの車の持ち主の悪運も尽きましたか。いつからだったかな? 夜遅くから朝にかけて停めてるんですよ」


救急車が来たら通りにくいですよね、と言うと、お巡りさんも頷いている。俺に会釈してから携帯を取り出して話し出したので、俺もそっと会釈してそこを離れた。きっと署に連絡してるんだろう。駐禁貼られるんだろうなぁ。レッカー移動まではどうか知らないけど。


「なあ、伝さん」

「おん?」

「あの車、落ち枝でへこむわ、駐禁とられるわ、踏んだり蹴ったりだなぁ」

「おぅん」

「でも、先に決まりを踏んだのも蹴ったのも向こうだし」


自業自得だな、と言うと、その通りだぜ、相棒! とでもいうように伝さんが力強く「おん!」と吠えて答えてくれた。


あの車、だいぶこの辺りを通る人の迷惑になってたんだよなぁ。微妙な位置に停まってるせいで道が狭くなって、通り抜ける際に危うく溝にはまりそうになった車もあるというし、黒いから、夜なんか見えにくいし。俺も「あっ!」と思ったことがある。自転車でぶつかりそうになった。


昼間はいないし、毎日停まってるわけじゃないから、誰かがそのうち警察に通報すると思ってか、皆何となく見過ごしてたけど、ついに年貢の納め時というわけだ。



昨夜の雨は、やっぱり凄かった。雨の元の台風は自分が不思議な動きをするばかりか、お巡りさんの通勤進路まで操って、ついに違法駐車の車にとどめを刺してしまったんだから。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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