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ある日の<俺> 2016年8月19日。  入道雲と夕立

前の話「熱中症ヲ阻止セヨ!」と少し繋がりがあります。

真っ青な空を囲むように、もくもくもく。ものすごく立派な入道雲が盛り上がってる。入道って、坊さんとか坊主頭の人のことだっけ? 確かに、白くて巨大な人影がこっちを覗いてるように見える。


入道といえば、妖怪で何とか入道ってなかったっけ? トイレを覗くとかいう、しかも「尻拭こうか」とか言って驚かすという……。うーん、どう考えても変た……いや、そんなもんを想像する人間のほうが変なのか。


ぼーっと空を見てたら、うわ、せっかく干したシーツが物干し竿から飛ばされそう。前にパンツ飛ばされたことあるし、大して高さの無いボロビルとはいえ、屋上はやっぱり風が強くなるんだろうか。いかんいかん、洗濯ばさみ洗濯ばさみ。


しかし、下手すると煽られて物干しが土台ごとひっくり返ることあるんだよなぁ。大物は屋上前の踊り場に張った洗濯ロープに移すべきか。


うーん、と腕を組もうとして時計に気づく。


おっと、いけない。古尾谷さんとの約束時間が迫ってる。今日はこれから街に出て、スポーツ用品店を回るんだ。近くのホームセンターでもバドミントン用の安いラケットは売ってるけど、種類も少ないしガットの張りが気に入らないらしい。俺には分からないけど、なんかダメなんだそうだ。


連れ立って歩くなら、さすがにこんな草刈りスタイルじゃあ失礼だから、着替えないと。そういえば、元モデルで俳優のあの人は、タキシードに蝶ネクタイ姿で草刈機使ってたな……。浦野のお婆ちゃんは彼のファンで、今でも取ってある彼が二十代の頃のモデル時代の雑誌を見せてもらったことあるんだけど、さすがにハンサムだった。お婆ちゃんは親しみをこめて彼を「草刈兄ちゃん」と呼んでいる。


……

……


うん、さすがに関係ない。しょーもない連想をしただけさ。よし、今日は娘のののかコーディネイトのシャツとパンツにしよう──ズボン、って言ったら「ダサい」って言われたから、ののかからのプレゼントのこれはパンツ。──こういう場合、下着のパンツは何て呼ぶんだろう?


ま、いいや。さっさと着替えよう。



昼前から街に出かけて古尾谷さんと相方さん用のラケットを選んだ後は、ちょっとリッチな昼食をご馳走になった。古尾谷さんは機嫌が良かった。今度、高校時代にバドミントン部でダブルスを組んでた相方さんの幼馴染さんと連絡を取り合って、相方さんが独りで住む家に突撃お宅訪問を敢行するという。「半世紀ぶりに姿を現して、あいつの度肝を抜いてやるんだ」と、ちょっと悪い笑みを浮かべていた……お手柔らかにしてあげてください。


相方さん、元気になるといいな。中身が双子のように似てるというなら、孤独と絶望の淵に佇むその人の瞳に力を取り戻させることは、古尾谷さんにしか出来ないだろう。


夕方、犬の散歩を終えて一旦ボロビルに戻る頃、夕立が来た。洗濯物は街から帰ってきてから取り入れたから問題なし。激しく降ってあっさり止む、これぞ夕立って感じ。


夏空のもくもくとした入道雲と夕立は、夏のダブルス。


なーんてなことを考えてひとり微笑み、俺は晩飯を作ることにした。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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