ある日の<俺> 2016年8月13日。 迎え火
夕方の犬の散歩の前に、屋上で迎え火を焚く。
あまり風もなくて暑いけど、焙烙の中のオガラが飛ぶ心配をしなくていいから気持ちが楽だ。
八月も十三日ともなれば、午後の六時を過ぎると急速に夕闇が迫ってくる。七時前には完全に日も落ちて、わずかな茜色が西の空を染めるだけ。それもすぐに夜空に取って代わられる。
──父さん、母さん、……弟。この火を頼りに目印に、今年も帰ってきてくれ俺のところに。
最後の煙を薄く上らせて、オガラが燃え尽きる。
「……」
さて、と。ジャーマン・シェパードのムーサくんを迎えに行くか。飼い主のご主人である山名さん、今日こそムーサくんに触れるかなぁ。
焙烙を持って部屋に戻る。重いドアを開けると室温常時二十八度の楽園。最近怠惰になった居候の三毛猫は、ボロソファの上に置いてあるブランケットの真ん中で丸くなってると思ってたら。
「うにゃん!」
ドアのまん前に座ってた。まるでお迎えするみたいに。珍しいな。餌か? おやつに鰹節が欲しいのか? そう思いながらドアを閉めようとした瞬間。
さぁっ……
風が吹き込んだ。ドアはそのまま閉まる。あれ? 風が出てきたのかな? まあいいや。出掛ける前に餌を入れておいてやろう。水も替えないと。
「……」
なんか知らないけど、居候猫が何も無いところをじっと見ながら、ものすごく機嫌良くゴロゴロ言ってる。猫って時々虚空を睨んで耳をぴくぴくさせてたりするから、そんなもんだと気にしてなかったけど。
もしかして、帰ってきた? 両親と弟。
そうだったら、いいなぁ……
居候猫には見えてるのかもしれない。
……ただ、機嫌がいいだけなのかもしれない。
猫って、不思議だ。