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ある日の<俺> 2016年8月7日。   夏が風邪引いて38度・立秋

今日は立秋。だというのに。


予想最高気温、38度。何だこの暑さは。完全に発熱してるじゃないか。

風邪でも引いたのか、夏?


なんて、しょーもないことを考えながら、俺は今引越しの手伝いをしている。依頼主の角松さんが軽トラで運んできた家財道具を、事前に渡されてた間取り図を見ながら運び込んで行く。何をどこに置くのか印がしてあるんだ。


角松さんは前のマンションにもう一往復するため、ここにはいない。前の二回で積み込めなかった小物を回収しに行ってるんだ。一人で運べない大物は俺も手伝って既にこっちに運び込んである。


割れ物には気を使うし、本の入った箱は重い。噴き出す汗で全身が水を被ったみたいにぐしょぐしょだ。それを予測して夏の必須アイテム・塩麦茶を1.5リットルの携帯魔法瓶に入れて持ってきたけど、もう残り少なくなってる。


こんなに水分摂ってるのに、全然トイレに行きたくならないんだぜ……。全部汗になって出てしまうんだ。なんかこう、濾過してる? 俺。そんな気分。口から飲んで、毛穴から出して。身体の中で何が起こってるんだ、って感じだよ。全て太陽のせい。


俺は首に掛けた手拭いで顔を拭きながら、恨めしく真っ青な空を見上げた。そこには暴力的なまでにぎらつく太陽。眩しい日差しが、もっともっと汗を掻けと煽ってくるかのようだ。


眩暈がするような思いで頭をめぐらせると、建物の南側を向いた窓という窓の硝子が、太陽を応援するようにぎらぎら輝いてる。うーん、太陽がいっぱい。


「何でも屋さん、どうだい、もうそろそろ片付きそうかね?」


このマンションの管理人さんが出てきた。軽トラから降ろした家財道具、玄関前に仮置きさせてもらってるんだ。


「このテーブルを運んだら、ここにある分は終りです。今、角松さんが取りに行ってる分で最後かな」


あともう少し、この場所お借りしますね、と頭を下げると、管理人さんは笑って首を振った。


「いいんだよ。ここは引越しが少ないからねぇ。日曜日だから車も少ないし」


そう言ってもらってありがたいです、と笑顔を見せておいて、見た目より重い木製のテーブルを運ぶ作業を始めた。くっ、腰にクる。よたよたしながらエレベーターに乗る。五階なんだよな。エレベーターに乗せられないような大きさのものが無くて良かった。ま、だからこそ、引越し屋じゃなくて何でも屋の俺に手伝いを頼んできたんだろうけど。


さすがに荷物吊り下げ用のクレーン車まで持ってないからなぁ。ああいうのは本職へ。うん。

角松さんの新居、エレベーターから離れてるのがまた……。頑張れ、俺。


気を使いながら玄関ドアを潜り、3LDKのうち畳の部屋に運んできたテーブルを置く。角松さん、きっちり計画を立てて置き場所決めてあるから、引越し中のわりにあんまり雑然とした感じに見えない。運ぶものには番号を振ってあるんだよ。ちなみに、このテーブルには「T3」と振ってあった。「ター○ネーター3」ではない。「畳部屋3」だ。


そろそろ角松さんが戻ってくるんじゃないかな、と開け放った窓から下を見る。あの角を曲がって──お、来た来た。さて、もう一仕事。


引っ込む前にもう一度空を見ると、やっぱり太陽はぎらぎらしてて……だけど、何だろう。


空の青が、昨日までに比べるとちょっとだけ薄い。

太陽の輝きが、ちょっとだけ褪せて。


必死で荷物を運んでる時は気づかなかった。光の色が違う。逃げる太陽に秋の風が追いついてきたんだ。


立秋。


やっぱり、今日がその日なんだな。──暑いけど。体温より気温のほうが高いんだけど。


ま、夏だろうと秋だろうと、俺はその日その日の仕事を精一杯丁寧に誠実にこなすのみだ。引越し手伝いもあともう少し。頑張るぞ!

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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