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ある日の<俺> 2016年7月20日。  草刈りと通りすがりの蜂

竹緑と、空の青のコントラストが涼しげ……って、暑いわ!


心の中で思いっきり叫ぶ俺、只今私道の草刈り中。短い距離だけど、両脇のジャングル化が凄いんだ。依頼主の小宮山さん以外に歩く人がいないから蔓延り放題。何故葛の侵入を許したのか……。なんて言ってもしょうがないんだけど。雑草はどっから来るのか分からないもんな。


電動草刈り機と鎌とスコップを駆使して、緑の侵略者どもを薙ぎ払う。某○神兵はいないけど、この暑さ、火の一日間と個人的に命名しておこう。一日もやらないけど。二時間も掛からないけど。


私道の突き当たりは小さな竹林。春にはタケノコが取れるんだって。竹と葛の争う最前線で俺は竹の味方をする。


これでよし、と電動草刈り機を止めると、竹林が微風にそよぐ音がする。


ざぁーー……ざざざざー……


竹が陽を遮って、うん、ちょっとだけ涼しい。 帽子を脱いで、首に掛けてた手拭いで顔全体を拭い、俺はふう、と息を吐いた。さて、小宮山さんに草刈りの完了を報告するかな。そう思ったとき。


ブーン


頬のあたりを何かが過った。目だけで追うと、それは黒と黄色の縞模様。


ブー……ン


身体が強張る。息を潜めてじっとしているうちに、それはどこかに飛んで行き、ようやく身じろぐことが出来た。


あれは、多分ヒメスズメバチ……。私道の入り口あたりに生えてたヤブガラシの蜜でも吸いに来たんだろうな。刈っちゃったけど。


蜂には嫌な思い出がある。


昔まだ子供だった頃、山歩きが趣味だった父に連れられて、双子の弟と、時には母も一緒にあちこちのハイキングコースを歩いたものだった。ある夏休みのこと、長い林道に飽きた弟と俺が落ちていた細い枝で歩きながらチャンバラごっこしていた時、知らずに蜂の巣を刺激してしまった。


怒って攻撃してきたスズメバチは戦闘ヘリコプターのアパッチさながら、突撃と離脱を繰り返し……。弟をかばった俺は何ヶ所も刺されてしまった。刺激しただけだったのですぐ引いてくれたけど、あの時のブンブンという羽音は今も忘れられない。


一日入院した俺に、弟は泣きながら言ったっけ。兄ちゃん、もう絶対蜂に刺されちゃダメって。


医者にも特に気をつけるようにと言われて、俺は今の何でも屋の仕事でも蜂の駆除には係わらないことにしている。アナフィラキシー・ショックの危険は少ないほうがいい。それでもうっかり刺されることはあるけど、刺された時の緊急処置はきっちりしてるからな。こないだ笠井さんが刺された時にも役に立ったし。


「──じっとしてればやり過ごせるんだけど」


うん。今のみたいに通りすがりのやつならば、振り払ったりせずじっとしてればそのうちどっか行くから、そんなに怖がらなくてもいいんだ。けど、あの時のこと思い出すと身が竦むよなぁ……。


まあいいや。気を取り直して、依頼主に仕事完了の報告、報告!

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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