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ある日の<俺> 2016年5月11日。  錆猫サビーヌ風邪っ引き

今にも降りそうな天気だったけど、午後からついに降り出した。

Tシャツ一枚でいると寒いくらいの気温だ。


みゃー、と力なく鳴くのは、猫用キャリーバッグの中でじっと体を丸めている錆猫。名前はサビーヌ。──俺が付けた名前じゃないからな。


サビーヌは中野さんちの猫。昨日までは何ともなかったのに、今朝になっていきなり食べたものを吐いたという。それからも何度も水みたいなのを吐いたので、心配した中野さんから獣医さんに連れて行くように頼まれたんだ。


「ここ数日の冷えが原因らしいです」


俺は玄関で迎えてくえれた中野さんに報告した。


「気温の上下が激しいと、人間でも体調を崩しやすくなりますよね。そんな感じみたいです」


「怖い病気とかじゃないんですね?」


キャリーバッグの中のサビーヌをそっと覗き込みながら、心配そうに訊ねる中野さん。


「それは無いそうです。あったかくしてやってれば自然に回復するそうですよ」


「良かった……」


中野さんは大きく安堵の息を吐いた。


「猫用のソフトあんかを出すことにします。ちょっと前に夏日になった時、仕舞ってしまったんですよね」


そう言いながら、中野さんはキャリーバッグの扉を開けて、そっとサビーヌの体を抱き上げた。


「そっか、サビーヌ。寒かったのか……俺もわりと季節の変わり目に体調を崩しやすい方だけど、そんなとこ飼い主に似なくてもいいのに」


中野さんの腕に、サビーヌは大人しく抱かれている。うんうん、飼い主に抱っこされると安心するんだな。


「そういう中野さんも、足首の捻挫、大丈夫ですか?」


そう。中野さんは今、足を痛めたせいでまともに歩けないんだ。玄関前の石段で転んだらしい。


「いや、まあ……、まだあと数日かかりそうです。在宅で出来る仕事だからそっちはいいんですが、サビーヌ連れて獣医さんに行くのは難しかったです。何でも屋さんが引き受けてくれて良かったですよ」


「いえいえ、こういう時の何でも屋ですから。また何かあったらご連絡ください」


俺は頑張った営業スマイルで中野さんに挨拶すると、依頼料金をしっかりもらって辞去した。


外に出ると、雨足がさらに強くなっていた。これは夜まで降り続きそうだ。急に鼻がむずむずして、思いっきりくしゃみが出た。次の仕事までにはまだ少し余裕があるから、一旦事務所兼自宅に戻って薄いジャケットを着ることにしよう。


熱いお茶が飲みたいなぁ……。


お茶はともかく、うちにいる居候の三毛猫もこの寒さで体調を崩すかもしれないから、何か対策を考えておこう。──とりあえず、まだ仕舞ってなかった電気コタツのスイッチを、弱モードで入れておいてやることにするか。


コンクリ打ちっぱなしの事務所は冷える時には本当に冷えるから、今年はまだまだ電気コタツを仕舞う気になれないんだよなぁ。

今年は五月でもやたらに寒い日がありました。お天気はリアルタイムなので、後から読むとその日がどうだったのかよく分かります。


ptが二つ増えてる……? ポイントくださった方、ありがとうございます。前からの方もありがとうございます。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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