ある日の<俺> 2016年4月26日。 幼女が誘う事案が発生
今日も今日とて何でも屋のお仕事。
色とりどりの花をつけたポット苗。羽田さんに頼まれて、ホームセンターでたくさん買ってきた。平たい箱に入れて自転車に積み、揺らさないよう押して行く。今日はまた一段と暑いなぁ、と思いながら歩いてたら。
女の子がてててと走ってきた。三つか四つくらいかな? そこの公園で遊んでるのかな、でも一人で道路に出てきたら危ないぞ、とか思っていると、何故か彼女は俺に向かってこう言った。
「おじちゃん、あめあげるから、こっちおいで?」
へ?
見知らぬ女の子が差し出すのは、あの甘くって酸っぱくって三角の、いちごでミルクな飴。
「……」
なんで、こんな幼女がどっかの誘拐犯みたいなセリフを……普通逆だろ、って、いやいや、俺誘拐犯じゃないし。え、幼女がオジサンを誘拐するのか……? いや、そんな訳無いし。この子、どこの子?
「これこれ、ユミちゃん、こっちおいで」
軽く混乱する俺に助け舟を出すように、知ってる老人の声がした。
「あ、黒瀬さん……」
「こんにちは、何でも屋さん」
ユミちゃん、と呼ばれた女の子は、またてててと走って黒瀬さんの足に抱きついた。何だ、顧客のお孫さんかぁ……。びっくりした。
「お孫さん、可愛いですね」
「いやー、ひ孫なんだよ」
黒瀬さん、デレデレだ。何でも、ゴールデンウィーク前倒しでひ孫のユミちゃんだけ先に預かっているらしい。
「ひ孫夫婦、この子を連れて旅行に行く予定だったらしいんだが、例の地震の影響で連休前半が休日出勤になったらしくて。急にうちで預かることになったんだよ」
「そうなんですか……」
「でね、うちの庭放っといたら草ぼうぼうで。この子が遊べないから、時間があったら刈りにきてほしいんだ。それを頼もうと呼び止めようとしたら、この子が」
愛おしそうに黒瀬さんがユミちゃんの頭を撫でる。
「おじさんに、こっちおいでするの」
にこにこしながら教えてくれるユミちゃん。そっか、「こっちおいで」は曾祖父ちゃんがよく彼女に言ってる言葉なんだな。
なんか、安心した。
夕方ごろに行きますね、と約束して別れた。ユミちゃんは俺にいちごでミルクな飴をくれて、黒瀬さんと手を繋いで帰って行った。曾祖父ちゃんと曾孫かぁ。微笑ましいな。
──可愛い幼女が知らない男性に「飴をあげるから、こっちにおいで」と誘う事案が発生。