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ある日の<俺> 5月5日。 柏餅をヤケ食いする

今日は子供の日。そして、待ちに待った娘との面会日。


それなのに。ああ、それなのに、それなのに。

何で俺は独りでかしわ餅をヤケ食いしてるんだよ・・・!



「ののか、風邪引いちゃったのよ」



元妻の、申しわけなさそうな電話の声を思い出す。


「今日も、絶対パパのとこ行くって言ってんだけど・・・熱があって・・・」


ここ数日、夏日かと思えば翌日は肌寒かったりと、寒暖の差の激しい日が続いている。娘のののかはそれに負けてしまったらしい。


「風邪引くと、必ず高熱を出すところ。あなたと体質が似てるみたいね」


元妻は溜息をつく。

そんなとこ、似なくていいのに。俺はしばらく無言になってしまった。別に、彼女が俺を責めてるわけじゃないってのは分かってるけれど。


気を取り直し、大丈夫なのかと訊ねると、元妻は答えた。


「初めは四十度近い熱が出てたんだけど、今は三十八度よ。さっき、水蜜桃入りヨーグルトを食べさせて、それから薬をのませたから、次に目を覚ましたらもっと下がってると思うわ」


水蜜桃入りヨーグルトは、あなたの風邪引きの時の定番だったわね、と彼女は少し笑った。


面会日、来週の日曜に延ばすわね、と彼女は言ったけれど、その日は母の日じゃないか。


「そんなこと、気にしなくていいわよ」


くすり、と息を漏らし、彼女は続けた。


「やせ我慢はダメよ。ののかだってあなたに会いたいんだから」


うー。


そんなわけで俺は、ののかのために買ったはずのかしわ餅をガツガツと喰らっている。昼飯代わりに。


近所の和菓子屋、戎橋心斎堂のかしわ餅は美味い。中の漉し餡の絶妙な甘さといい、もちもちした食感といい、最高だ。


だけど、さすがに十個も食べたら胸焼けが・・・

濃いぃお茶を飲みたいところだけど、飲んだら腹の中でよけい膨れそうな気がする。


・・・熱で苦しむ娘に何もしてやれないなんて、俺って何て不甲斐ない父親なんだろう。


はぁ。


来週会えなくてもいいから、早く良くなってくれよ、ののか。パパはお前が元気で笑っていてくれるのが一番うれしいんだ。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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