ある日の<俺> 2014年7月11日。 猫のヒゲはトゲになる
知ってるかい?
刺さるんだぜ、あれ。
あれって何かって?
決まってるじゃないか。あれだよ、あれ。
猫のヒゲ。
・・・
・・・
俺は今、踵から猫のヒゲを生やしてる。
天井張り付きタイプの電灯カバーを、どっちから外そうかと上ばかり見てたら、足元に落ちてたのが刺さったんだ。
「大丈夫ですか、何でも屋さん!」
「はは、大丈夫ですよ」
顧客様の手前だし、顔で笑って心で泣、くほどの痛みでもないし。けど、あまりにも予想外というか、そういう意味で痛いかもしれない。
ほら、採血とかされる時って、針が刺さるって分かってるから「あー、今針が刺さったねー」程度に思えるけど、何もなしにいきなりチクッときたら「痛っ!」とならないか? そういう、サプライズな痛み。
中川さんちのチャーちゃんのヒゲ、硬い。薄い夏用の靴下だから、よけい刺さりやすかったのかもしれない。血こそ出てないけど、かなりのもんだ。
「すみませんねぇ」
中川さんは恐縮しきりといった状態だ。いや、ホント、びっくりしただけだし。
「猫のヒゲも、自然に抜け落ちるものなんですね。面白いなぁ。それが刺さるなんて、こんなこと滅多に無いですよ。なんか招き猫的なご利益が有りそう。宝くじでも買おうかなぁ」
そんなふうに言うと、ようやく中川さんも笑ってくれた。
さてさて、踏み台借りて、さっさと輪っかの電球を替えましょうか。吊り下げ型のと勝手が違うから、お年寄りには新しいのも良し悪しなんだよなぁ。
──こら、チャーちゃん。いつの間に踏み台に乗ったんだい? どいてくれよ。
「ぃにゃん」
このー、シャム柄のくせに顔が丸くてタヌキみたいなチャーちゃんめ! どかないと、抱っこしちゃうぞ!