2013年 夏至の日の<俺>
一昨日も雨、昨日も雨、そして今日も長崎じゃないけど雨だった。
もうすぐ七月だというのに、室温が二十五度を下回るってどうなんだろう。じっとしていると肌寒いくらいだ。そのせいだろう、居候の三毛猫も外に出ず、ボロソファの上で丸まって寝ている。
だから洗濯物の上で寝るの、止めてくれよ。朝からバタバタしてて、たたむ暇がなかったんだよ。雨の日の何でも屋は、いろいろ忙しいんだよ。元からの予約のほかに、買い物代行とか、雨樋詰まりとか、新規の犬の散歩とか、いろいろ、いろいろ。
猫に愚痴ってもしょうがないよな。中途半端に濡れたTシャツがじっとりとしてちょっと冷えるけど、大丈夫だ。とりあえず、ほうじ茶でもいれよう。もう少ししたら戸田さんちのゆう君を、算盤塾まで迎えに行かないといけない。
狭い台所で湯を沸かしてたら、足元に何かすりりんと・・・って、お前か、三毛猫。
「どうしたんだ?」
何となく、声を掛けてみる。と、俺の顔をじっと見上げていた三毛猫が、いきなりだだっと走って元のボロソファの背に飛び乗った。そしてまた俺の顔を見て、窓の向こうを見て、にゃあ! と鳴く。
付けていたラジオの時報と同時。午後七時。
ひと声鳴いただけで、三毛猫はまた元の場所に戻り、くるりと丸くなった。だから何がしたかったんだ、三毛猫よ。お前の行動は意味不明・・・
──全国的に雨のところが多かったですが、本日、六月二十一日は夏至。日の出が午前四時二十五分ごろで、日の入りが午後七時ごろ。昼の長さがだいたい十四時間三十五分という、一年で日が一番長い日となります。
・・・ラジオのアナウンサーの声を聞いて思い出した。そういえば、今朝の四時半ごろにも鳴いたっけ、こいつ。ひと声だけ。それで目を覚ましたんだ。で、ついさっき午後七時、またひと声だけ鳴いた、唐突に。
「今日は夏至だって、教えたかったのか、お前?」
訊ねても、猫は知らん顔。しっぽだけを揺らしてる。
うーん、猫は謎だ。って、
「あー、沸騰してる!」
慌ててコンロの火を止めた拍子に、指の背がヤカンに触れてしまってあちちちち!
「にゃっ」
今のは、バカめ、って聞こえたぞ、この居候。鼻の穴、片方塞いでやろうか、コラ。
本編が『一年で一番長い日』。ある年の夏至の日から始まった、ちょっとだけハードボイルドかもしれない? <俺>の奮闘記。
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本編は完結しております。その後の小話やイベント話を細々と。・・・こちらとあまり変わらないかもしれません。