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ある日の<俺> 11月23日。 父の悲哀 男の哀愁加齢臭

今日は風が強い。

寒さに背中をすぼめながら荷物を載せた自転車を押していたら、コンビニ袋を持ってとぼとぼ歩く堀田さんと出合った。


堀田さんは俺も時々行く大型ホームセンターの警備員だ。今日は休みで、愛犬のために餌缶詰を買いに出てきたらしい。職場のペットコーナーで買わなかったのは、愛犬の好む銘柄の缶詰が置かれていないからだとか。


「・・・で、なんでそんなにしょんぼりしてるんですか? 寒いから、ってわけじゃなさそうですけど」


いつもキリっと男らしい眉が、「ハ」の字になってるんだもんさ。


「いや・・・最近、スモモちゃんがつれなくてさ」


スモモちゃんとは、堀田さんの愛犬のロングコートチワワの女の子だ。ずーん、と音がしそうなほど肩を落とし、今にも鼻をすすりそうな堀田さんを宥めながら、俺は事情を聞いてみた。


「うん。石鹸なんだ」


「石鹸?」


「そう。風呂の石鹸を変えてから、スモモちゃんが寄り付かなくなってしまって・・・。前はしょっちゅう俺の膝に乗って、可愛く背伸びして首筋とか背中の匂い嗅ぎに来てたのに、最近は知らん顔」


「じゃあ、元に戻せばいいじゃないですか、石鹸」


「それが、ダメなんだ。ヨメや娘から反対されて。自分じゃ分からないんだけど、今の石鹸に変えてから、加齢臭ってやつが無くなったらしいんだ。年頃の娘に、『お父さんが傷つくと思って黙ってたけど、すっごく臭かったんだから!』とか言われたら、元の石鹸なんて使えないよ・・・」


スモモちゃんは俺のことが好きだったんじゃなくて、俺の加齢臭が好きだったんだよな、とまた落ち込んでいく堀田さん。


そのあまりにも哀愁漂う姿に、俺は何も言えなかった。


「・・・」

「・・・」


強風吹き荒ぶ(大袈裟か)道端で、無言で佇む男二人。一人は依頼された買い物(本日特売のトイレットペーパー)を自転車に山と積み、一人は片手に小さいコンビニ袋。──全く絵にならない。


「えっと、帰ってその缶詰を開けてやったら、大喜びだと思いますよ、スモモちゃん」


「そうかな・・・」


「その後、散歩に連れて行けば完璧ですよ! さ、落ち込んでないで! スモモちゃんがお腹すかせて待ってるんでしょう?」


「そ、そうかな?」


「そうですよ!」


「そうか!」


堀田さん、何とか元気を取り戻してくれたみたいだ。微妙なオトコゴコロと飼い主心。俺にも良く分かる、ような気がする。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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