ある日の<俺> 8月24日。 真夏の花吹雪 おまけ
「あらあら、まあまあ」
榊原のおばあさんに呆れられた。
「何でも屋さんたら、髪の毛にいっぱい何かの花びらがついてるわよ。これは──百日紅かしら?」
おばあさんは老眼鏡を上にずらしたり、戻したりしながら俺の頭にくっついてるらしい花びらを摘み取ってくれる。男の人が、花冠の花嫁さんじゃあるまいしねぇ、ところころ笑う。ま、ウケたんなら別にいいんだけど。
「いや、さっき、佐藤さんちの前を通ってきたんです。ちょうど風が強くて、花吹雪状態でね。いつ見てもあそこの百日紅の花は見事ですよねぇ」
用意してあったらしい買い物リストを受け取りながら、俺も笑う。と、おばあさんは少女のように首を傾げた。
「佐藤さんのお庭の・・・? あそこの百日紅の木は、一昨日だったかしら、全部伐ってしまったって聞いたけれど。何でも、仕事で海外に行ってた息子さんご夫婦が帰ってくるから、思い切って二世帯住宅を建てることにしたらしいわ」
今が花の盛りなのに、可哀相なことよねぇ、と溜息をつく。
「お、一昨日?」
「ええ。佐藤さんのお隣の鈴木さんがそうおっしゃってたわ」
今の季節はあちこちで百日紅の花が満開だから、きっとそれが飛んできたんでしょうね、とおばあさんは一人納得しているようだ。
え? だけど。
俺、さっき。本当についさっき、佐藤さんちの庭の塀越しに、立派な百日紅の古木たちがいつも通り色とりどりの花をつけてるのを見たんだけど。でもって、とっても夏らしい花吹雪に包まれてきちゃったんだけど。
あれ。
あれれれれれ?