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ある日の<俺> 12月19日。 火事の予兆は赤いひらひら?

冬至まであと三日。夕方五時をちょっと過ぎるともう真っ暗。


あー、月がきれいだなぁ。冴えた空に浮かぶ、満月にちょっとだけ足りない白い月。お陰で、暗いはずの夜道もそう心細くない。そんなことを思いながらぼーっと歩いてたら。


視界の隅に、何か動くものがあるのに気づいて顔を上げた。斜め前の家、二階あたりで何か赤いものがひらひらはためいている。


それを見た途端、俺はぞっとした。


なんでぞっとしたかっていうと・・・怖い話、聞いちゃったんだよな、このあいだ吉田の爺さんと将棋打ってる時。昔の怪談らしいんだけど・・・


ある男が夜、寄り合いから帰る途中、屋根の上で沢山の赤い布がひらひらとしている家を見た。妙だな、と思いながら帰宅した男だったが、その翌日、件の家が火事で焼け落ちたと聞いて、「あの赤い布は、炎の幽霊だったのか」と恐れ慄き、そのまま熱が出て、三日三晩生死の境をさまよったという。


・・・な、怖いだろ?


今、俺が目にしてる赤いひらひらしたのが、もしかしてそういう感じのものだったりしたら…どうしよう?


どうしようったてどうにもならないよな。だってさ、仮に俺がここの家の人にそれを訴えたとして、そんなこと信じてもらえるわけがないじゃないか。不審者として警察を呼ばれるのがオチだ。


でも、気になる、あの赤いひらひら…。知らぬふりして立ち去るべきなんだろうか。


月明かりの下、内心激しく葛藤していたら。


いきなり、本当にいきなり強い風が吹いた。巻き上げられた砂埃が、俺の目を襲う。


「痛っ…!」


思わず、その場に膝をついて悶絶する俺。まともに砂が目に入って、痛い。涙がだらだら出て、鼻もずるずる出る。


それでもなんとか痛みを我慢し、涙が砂を洗い流してくれるのをただひたすら待つ。


どれくらい時間が経ったのか分からないが、何とか目が開けられるようになった。ひどく長い時間に感じられたが、多分ほんの一分も経ってないんじゃないだろうか。


目をしぱしぱさせながら、赤いのがひらひらしていた場所を見た。

が。無い。さっきまで確かにあったひらひらが無い。


どこへ行ったんだろう。


・・・

・・・


うん。あれはきっと目の錯覚だったんだ。疲れてるんだな、俺。早く家に帰ってメシ喰って風呂入って寝よう。





翌日。もちろんその家は火事になんてなっていなかった。俺はホッとした。怪談を真に受けて寝不足になるなんて、いいトシしてまったくなってないよな。きっとあれは、月が見せた幻だったんだ。



その家で、小火があったと知ったのは、それから五日後のことだった・・・。


偶然、だよな?


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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