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ある日の<俺> 11月8日。 家に嫌われるということ
坂東の爺さんの碁の相手をしている間に、すっかりと暗くなってしまった午後五時半過ぎ。明かりのついていない家の前で、道に這いつくばって何かを探しているらしき人影がひとつ。
声を掛けてみると、この家の持ち主、現在大学病院に入院中の万年青さんの孫だという。探していたのは当のこの家の鍵。来る前に確かに財布に入れて、何度も確認したはずなのに、いざ使おうとしたらどこにも見当たらず、落としたのかもしれないと思って探していたのだそうだ。
これまでも、何度もここに来ているのに、そのたび何かアクシデントがあって、中に入れないのだという。
「・・・この家に、嫌われてるんですよね、俺」
溜息とともに呟いて、肩を落として彼は去っていった。
──家に嫌われるって、そんなことがあるのかなぁ。