ある日の<俺> 10月16日。 彼岸花の夢と、狛犬きょうだい
何も無かった場所に、ある日忽然と現れて、真っ赤な炎のように咲き乱れていた彼岸花たち。
勢いがあったのはほんの数日。今はもう、見る影も無くすがれている姿が多く見られるようになった。
あれってさ、うっかり霜に当ててしまったクリスマスカクタス(別名:カニサボテン)と似てるよな。なんかこう、溶け崩れたみたいになるの。
クリスマスカクタスは、いっぺんそうやって失敗するとすっかりダメになってしまうけど、彼岸花はまた来年咲くんだよな、逞しく。なんだろな、あの生命力。いや、それが悪いってわけじゃないんだけど。
そんなこと考えてたら。
昨夜、変な夢を見た。
どっか知らない山の中の道を、一人で歩いてる。周囲は荒れた田んぼ。空は暗いのに、畦道に乱れ咲く彼岸花の群れだけが、やたらに赤くて鮮やかで。
風も吹かず、他に生き物の気配もなく。
てこてこ歩いてると、見えてきた小さな祠。周囲は薄暗いのに、何故か、崩れかけた土台の様子まではっきり見える。俺、そっちに行きたくないのに、足は止まらない。だんだん近づいていく。
それまで何も感じなかったのに、俺、急に怖くなってきて。なのに、祠から目が離せない。
どうしよう、どうしよう、誰か、助けてくれ! ──そう、心の中で叫んだと思う。
そしたら俺の足元に、忽然と白い仔犬が現れた。二匹いるそいつらは、すごく楽しそうにじゃれあいながら、俺の周りをぐるぐる走り回る。踏まないように気をつけてると、後ろからどっちかが膝裏に頭突きするから、俺、膝かっくん状態で転んで・・・
そしたら、目が覚めた。
何だったんだろ、あれ。もかしたら俺、助けられたのかな、あの仔犬たちに。
そういえば、あれって俺の知ってるあの狛犬きょうだいだったのかもしれない。ま、ただの夢なんだけど・・・でも、不思議な夢だったな。
狛犬きょうだいについては、「古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚」をどうぞ。