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ある日の<俺> 4月9日。結婚指輪
桜は着々と衣替え。まだまだピンクの方が多いかな。それもこの雨で大方散ってしまうだろうけど。
そう、雨。普通なら、よほどでなければ外を歩きたくないほどの。
なのに、何で今、俺が雨合羽を着こんでこんなふうに桜の根方を這いずり回っているのかというと、知り合いの水沢さんから落し物探しの依頼を受けたからだ。花見の宴会で楽しくほろ酔いしたのはいいが、結婚指輪を落としてしまったのだという。
しょげてたなぁ、水沢さん。
自分でも探したが、どうしても見つけられなかったという。それで、この公園を熟知している(と、水沢さんは認識している)何でも屋の俺に、望みを託すことにしたというのだ。
正直に奥さんに謝ればいいのに・・・春の花の、かわいい花束でも贈ってさ。
ああ、桜の花衣が水の裳裾を引いている。地面に落ちた花の花見もオツなもんだ、ということにしておこう。・・・冷えてきたな。
ん? ピンク色にうもれてるけど、あの銀色の光は?
──やれやれ。これで家に帰れそうだ。