ある日の<俺> 3月8日。 無自覚の人助け その後
昼メシをシンジのたこ焼きで済ませようと、駅前公園脇の屋台まで歩く途中、ちょうど改札を抜けてきたばかりの智晴と出くわした。どっかからの帰りらしい。
そういえば、この三日は智晴の誕生日だった。遅くなったけど、一応おめでとうぐらい言っておこうかと思ったが、この件に関しては、智晴のやつ、切り出すとたちまち機嫌が悪くなるんで言えなかった。・・・今年もまた、俺の元妻、つまり、実の姉にいぢめられたんだろうなぁ。
三月三日の桃の節句が誕生日の男なんて、この日本にいくらでもいるだろうに。・・・幼少の頃からずっとからかわれてると、コンプレックスにもなるんだろうな。
そんな智晴に、ふと思いついて先週の土曜の出来事を話した。
「おかしな話だろ? 何で一万円もくれたんだろうなぁ」
そう締めると、智晴は何故か少し驚いたような顔をした。それから溜息をつき、哀れみとも苦笑ともつかない、なんとも微妙な表情で俺を見た。
「──義兄さんは、やっぱり義兄さんですね。まあ、何というか・・・そのままのあなたでいいと思いますよ」
それはどういう意味かと訊ねたけど、答えてはくれなかった。
何だよ、智晴。言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれよ。すっきりしないじゃないか。