ある日の<俺> 10月28日。 風呂場の怪談
湯船に浸かってたら、いつの間にかうたた寝してた。目を開けなくちゃと思うのに、あまりの眠さに意識を引きずられる。
と。
ぴちゃん・・・ぴちゃ・・・
どこからか、不自然な水音が聞こえてくる。最初はぼんやりとそれを受け止めてたけど、段々不安になってきた。
風呂に浸かってたら天井から血が! とか、そういうホラー映画なかったっけ?
ぴちゃ・・・ぴちゃん・・・
水音は、耳元で聞こえるようになってきた。怖い。早く起きなくては。でも目が開かない。眠くて・・・
「こ、こら~!」
根性で目を開けた俺は、見てしまった。いつの間にか蓋の上に乗った三毛猫が、湯船を覗き込むようにして美味そうに湯を舐めているのを。
俺の怒声に驚いたのか、三毛猫は慌てて蓋から飛び降り、ドアの隙間からするりと外に出て行った。居候のくせにびっくりさせやがって・・・俺、風呂のドアをちゃんと閉めてなかったんだな。
それにしても、猫って、何で変なとこで水飲むんだろ。風呂とか、わざわざ落とし水飲みにくるし、屋上の菜園(プランター菜園だ、もちろん)にいるときは、バケツに溜まった雨水とか舐めてることもある。水入れの水、ちゃんと取り替えてやってるのに。
はあ。もういいや。早く上がって、寝よう。うとうとしてる間に湯がちょっと冷めたみたいだ。
今夜は、化け猫の夢見そうだなぁ。くそぉ、居候猫めが。
・・・
・・・
だけど、湯船での転寝は危ないもんな。独り暮らしだし。起してもらったんだから、素直にありがたいと思わなければ。
そう結論付けて、俺はざばっと顔を洗い、まだ頭の芯に残る眠気を押し流した。