ある日の<俺> 8月14日。 智晴と下ネタ
「ねえねえ、義兄さん」
元義弟の智晴が、優しげに見せた胡散臭い笑顔で俺を呼ぶ。パソコンの調子が悪いんで見にきてもらってたんだが、何かおかしなことでも──
はっ!
ネット上で見つけたアンナモノやコンナモノは、智晴が来る前に削除したはず。まさか、残ってたとか?
途端に早くなる動悸。何か息苦しくなってきた。
「な、何だよ?」
答えつつ、無意識に胸を押さえる。
「義兄さんが、そんなことで悩んでたなんて知りませんでしたよ。僕も男だから気持ちは分かるけど、まだそんな年じゃないんだし、安易に薬に頼るのはどうかと思いますけど」
「え? な、何のこと?」
薬って? そんなもの、覚えが・・・意味も分からずパニクっていると、楽しそうに智晴がそれを差し出した。
それは、ただのボールペン。だけど、側面に・・・
バイア○ラ
「ち、違うんだ、智晴! それ、顧客の看護士さんにもらっただけで・・・他にシナロング錠とか、メバロチンとか、色々あるだろ!」
製薬会社の、販促品、ていうのかな? 病院に来るMRの人にもらったのが溜まってきたからと、俺にくれたんだ。
「違うんだよ・・・」
書いてある薬品名、頭には入っていたけれど、単なる模様としてしか認識してなかった。三色とか四色とか、そういうのはチェックしてたけど。
「バ○アグラ」のやつは、ドクターグリップ・タイプのやつで、書きやすかったんだよ。
ただそれだけなんだ、智晴! 妙な誤解はしないでくれ!
「ぶはっ!」
智晴が吹き出した。肩を震わせて笑ってる。
「そんなに泣きそうな顔しなくても。分かってますよ。ちょっとからかっただけじゃないですか」
「・・・」
この元義弟は、やっぱり性格が悪い。今やってもらってる作業が終わったら、鶴亀堂の夏向き創作和菓子を出してやろうと思ってたけど(わざわざ買っておいたんだ。一個五百円もした)、コンビニ水羊羹に変更だ!
・・・
・・・
ああ、俺って。
「俺って、小さいなぁ・・・」
自分で自分が情けなくなってきて、思わず呟いてしまった。そんなことでしか意趣返し出来ないなんて、情けない。
「え? 義兄さん、小さかったんですか?」
ニヤニヤ笑いながら追い討ちをかける、元義弟。
「と、も、は、る~!」
下ネタは、やめろ!
管理人も、看護師してる友人に同様のボールペンをもらいましたが、「バイ○グラ」だけは遠慮しました。