ある日の<俺> 8月12日。 狗尾草はぺんぽんぺぺんぽん
空き地に群生してるエノコログサ。
てんでばらばらの方向に、ぺんぽんぺんぽんぺぺんぽん。
薄緑の毛虫みたいだな。猫のおもちゃにちょうど良さそうだ。なにせ、別名ネコジャラシ。
「な、なあ、銀さん」
俺は、元気良くリードを引っ張る白っぽい秋田犬に呼びかけた。銀さんは江田島さんちの飼い犬だ。ちなみに、金さんはいない。
「銀さん、どうしてそう草むらが好きなんだよ・・・」
ハッハッハ、と息を吐きながら、エノコログサの群生に突進していく銀さん。・・・楽しそうだ。日が落ちて間なしの空き地は、まだまだ草いきれに満ちていて暑い。
「そりゃ、銀さんは毛皮着てるからいいけどさ」
丈高く伸びたエノコログサの房ふさが、俺のむき出しの腕やら、顔やら、襟元にぺんぼこ触れて、はしかい。はしかいって何かって? こそばゆくてむず痒いってことだよ。
うをを、あちこち掻きむしりたくなってきた。
「銀!」
俺は強い調子で銀さんに呼びかけた。
「戻りなさい。もうおうちに帰るんだから」
「くぅん・・・」
「ダメ! 散歩はもう終わり」
「おん!」
抗議するようにひと声吠える銀さん。ったくもう・・・
「ほら!」
最後の手段。俺はぺんぽんしてるエノコログサを三本ばかり摘んで、銀さんの鼻先で揺らしてみた。
「うぉん!」
気に入ったみたいだ。鼻を近づけて、房を齧ろうとする。
「さ、お家に買えるぞ!」
馬に人参よろしく、銀さんにエノコログサ。進行方向に向けて振ってやると、機嫌よく追いかけてくる。
エノコログサって、ネコジャラシだと思ってたんだけど・・・実はイヌジャラシの異名もあるのかなぁ?
狗尾草。
エノコログサは犬のしっぽ草。