ある日の<俺> 5月25日。 嵐の翌日は樋掃除
「ある日の<俺> 5月20日。」は、「双子のきょうだい」と改題して『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』に収録。完結済み。
昨日の嵐は物凄かった。
朝からあまりご機嫌うるわしくなかった空が真っ黒になり、不穏な気配が漂ったかと思うと、遠くから雷鳴が聞こえてきて・・・
西風が、ゴォッー! 天の湖の底が抜けたかのような大粒の雨が、ザァァァッー! 荒れ狂う空、翻弄され揉みくちゃにされる木々。
その時間帯は、たまたま田中の爺さんの将棋の相手をしてたから良かったけど。外の仕事だったら服のまま陸で溺れていたかもしれない。
で、一夜明けて今日。ああいう嵐の後は、実は何でも屋にとって稼ぎ時だったりする。
樋掃除だ。
庭木や街路樹の若葉が軽く千切れ飛ぶ勢いの嵐だったから、木の植わってる場所と風向きの関係で、掃除しないと次回は絶対雨漏りするというくらい、樋に葉っぱが詰まってしまう家がある。
今日一日で五件ばかりそういうお宅から樋掃除の依頼を受けた。明日は四件、あさっては三件。
屋根で作業するのには、結構危険を伴うものだけど、俺はやるぜ! もちろん、転落したり怪我したりしないように、細心の注意を払う。何たって、何でも屋は身体が資本。大変だけど、多少の危険手当も上乗せしてもらえるので、とにかく頑張るしかない。
ぐっ! と心の中だけで決意の拳を握り締めていたら。
──あぉうあぉう、あぉう
近いところから、猫の哀れな声が聞こえる。見ると、この家の鬼瓦の向こう側に猫がいる。毛並みからして野良か? うっかりここまで登ったはいいけど、降りられなくなったってクチだな。
ふう。
分かったよ、名も知らぬ野良猫よ。俺が降りる時、一緒に降ろしてやろうじゃないか。
そんな、今にも殺されそうなでかい声で鳴くんじゃねぇ! 気が散るわい。
ったく、もう。