ある日の<俺> 4月21日。 ジグソーパズルとマスオさん 5
「うーっ! い~や~だ~!」
突っ伏していた池本さんが、頭を掻き毟ってじたばたしだした。
「義父にジグソー仲間に引き入れられてしまう~!」
「いや、その。奥さんに取り成してもらったらどうですか?」
娘の言うことなら聞いてくれるんじゃないか? という俺の提案に、池本さんは首を振った。
「ダメだ。彼女は喜んで俺をイケニエにすると思う。実はさ、俺と結婚するまでは、彼女もたまに義父のジグソーにつきあってあげてたらしいんだ。お義母さんが亡くなってから、義父はひどく気落ちしてたらしくてね。そのしょんぼりぶりを見てられなかったっていうか、はっきり言って寝込まれたら困るっていうか、そういう理由だったみたいなんだけど」
「えっと、奥さんって会社勤めでしたっけ?」
うん、と池本さんは頷く。すん、とハナをすする音が哀れを誘う。
「所属が海外事業部だから、長期出張とかも多いんだ。だから家にもあまり帰って来れない。そんな状態で義父の趣味の相手してたら、そりゃ疲れるのも分かるよ。結婚を機に、俺がそれまでの会社を辞めて在宅で仕事したいって言った時、彼女、すごく応援してくれたけど、それって俺が義父の相手をするのを思いっきり期待してたんだろうなぁ・・・」
その奥さん、今はヨーロッパ各地を回っているという。帰国するまでにはまだ二週間はあるということで、どのみち、彼女に取り成しを頼むのは物理的に無理だな。
はぁ。俺は思わず深~く息をついた。町内旅行で温泉に行っているというお義父さんが帰るのは明日。あーうー、もうホントにどうしよう。池本さんじゃないけど泣けてきそうだ。
あのピースが・・・あれさえおかしなことになってなきゃなぁ。形だけはぴったりなのに、なんであれだけ・・・
「あ、そうだ!」
俺は無意識にぽん、と両手を打っていた。もしかして、今思いついたこの手、いけるかもしれない。