ある日の<俺> 4月21日。 ジグソーパズルとマスオさん 4
わけがわからない、といった様子でぼーっと俺の指の先を見つめていた池本さんの眼が、一瞬の後、驚愕に見開かれた。見る見る顔色が悪くなる。次の瞬間叫んだ彼の声は、悲痛としか言いようがなかった。
「な、なんだ、これっ!」
顔ごとその部分に近づけ、食い入るように見つめていたかと思うと、ぺたぺたとパズル全体を撫で始めた。
「何で? どうして? 形は合ってる。合ってるのに、何でここだけ異次元なんですか?」
このピースだけ、オペラ・ガルニエじゃない!
搾り出すようにそう言うと、池本さんはその場に突っ伏した。想定外の出来事に、俺も言葉を失っていた。
窓から降り注ぐ晩春の光。そろそろ夕方ともいえる時間だけど、まだまだ明るい。今日は一日天気が良かったから、日の当たっている間は暑いくらいだろう。
けど、この部屋の中は寒い。見えないブリザードが吹き荒れている。その中心にいるのが未だ床に伏したままの池本さんだ。小刻みに肩を震わせているように見えるのは、気のせいではないだろう。
俺は途方に暮れた。この後に入っている仕事のことを考える。一応は依頼どおりにオペラ・ガルニエを完成させたんだから、ここで帰っても文句は言われないとは思う。思うが、後味が悪い。
たったひとつのピースのために・・・
「あの、もう一度探してみませんか、ピース。カーペットの裏とかに紛れ込んでるのかもしれないし」
俺は提案してみた。いつまでもこうしてたって事態が好転するわけじゃないんだし、少しでも前向きに考えるしかないと思うんだ。
ってか、そうするしかないじゃないか。
「・・・床に落としてバラバラになったのを、這い蹲って拾い集めて、最終的には掃除機まで出してきて徹底的に回収したんですよ。あれで見つからなかったら、もうどこにも無いですよ」
池本さんのくぐもった声が言った。
うーん、どうすればいいんだ。