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ある日の<俺> 4月21日。 ジグソーパズルとマスオさん 3

「──まあ、やるしかないですね」


「ですね」


ふたり同時に溜息をついていた。思わず顔を見合わせ、うつろに笑いあう。


で、また。


黙々黙。黙々黙。ひたすら目と脳味噌と手を動かす俺と池本さん。残りを考えると嫌になるんで、とにかくピースを合わせる、合わせる、合わせまくる。これだけ集中するの、学生時代の一夜漬け以来じゃないだろうか。


そして、数時間後。


「こ、これが最後のピース・・・」


池本さんの声が震えてる。


「早く、嵌めてください・・・!」


俺の声も震えてる。


「・・・」


小さな虫食い穴が、ぴたりと塞がれる。ついに、オペラ・ガルニエが完成した。無言で見つめ合い、頷き合い、固く握手を交わす男二人。同じ苦労を分かち合った者だけが持ちうる、連帯感。


「・・・泣かないでくださいよ」


「え? はは、安心したら気が抜けたかな。これで義父の仲間にならずに済むかと思うと」


ちーん、とティッシュで洟をかむ池本さん。

マスオさんも大変だなぁ・・・


つい苦笑してしまった顔を元に戻して、と。


後は、元の簡易額(裏が厚紙で、表側がぺらんぺらんの透明樹脂製。こんなんだから落としただけでバラけたんだな)に完成したパズルを入れ直せば、ミッション終了だ。池本さんの願った証拠隠滅、というか原状回復は完璧。夕方の犬の散歩時間には充分間に合うな。


んー、じゃあここからの帰り、商店街に寄るか。夕方の特売やってるかも。たまには冷蔵庫の中補給しとかないと困るもんなぁ・・・って、あれ?


「・・・」


俺は、琥珀色のオペラ・ガルニエのとある一点に目を奪われていた。

じっと見つめる。凝視する。


「あ・・・」


「どうしたんですか、何でも屋さん?」


ちーん、とハナをかみながら池本さん。男前が台無しですよ、とかそんなことはどうでもいい。


俺は気付いてしまった。──正直、気付きたくなかった。


「いや、あのですね、池本さん」


気付いたからには知らせねばならない。誠実をモットーとする<地域の皆様の何でも屋>としては。


ああ、声が震える。


「その、最後のピース・・・ちょっと色目が違わなくないですか?」


「え・・・」


震えを押し殺すため極端に低くなった俺の声に、ぽかんとした顔を向ける池本さん。彼を促すように、俺は問題の箇所を指で示した。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もそっちの<俺>も、<俺>はいつでも同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『古美術雑貨取扱店 慈恩堂奇譚』古道具屋、慈恩堂がらみの、ちょっと不思議なお話。
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